第十九章 霊媒師 入籍

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『ふ、藤田さん? なんでお嬢さんが泣くの? ……もしかして私に同情してくれてるのかい……? ああ、ありがとうね、ごめんね、大丈夫だよ、私はもう死んでるんだもの。胸に穴が開いたってこれ以上死ぬ訳じゃないし、足がなくたってどうって事ない。ああ、ごめんよ、泣き止んで。私、ちょっと大袈裟だったね、胸の傷はたいして痛くないし、足がないのも幽霊らしくて良いと思ってるんだ。だから泣かないで、』 菅野さんはウソつきだ。 気を遣って笑うけど、眉間のシワはそのままで、その傷が痛くないはずないないじゃない。 自分の痛みより、私が泣いてしまったのを気にしてくれてる。 ごめんなさい……もしかしたら菅野さんを襲ったのはうちの会社の先輩かもしれないんです。 こんなに優しい菅野さんを、ウルサイという理由だけで撃ったとしたら、そんなの酷いし悲しいよ。 やだ……どうしよう、涙が止まらない。 道行く人達から見れば、コンビニ前にしゃがみこむ私は一人で泣いていると思うだろう。 だけど誰一人私に話しかける人はいない。 菅野さんだけが私を心配してる。 必死になって『私は大丈夫だからね』と笑ってくれる。 理不尽な暴力を受けたというのに、心は優しいままの幽霊(ひと)。 菅野さんをどうにかしてあげたくて、その気持ちが膨れてしまって昂って、私はブラウス越し、社長のペンダントを握りしめていた。 せめて胸の痛みだけでも取り除いてあげれたらいいのに、 私に出来る事……ああ、わからない、 社長、助けて、 どうしたらいいか教えてください、 自分の無力さが悔しくて、心の中で社長を想い、社長の助けを強く願った時だった。 握った手の中のペンダントがドクンと熱を発した気がした。 な、なに……? 今、ペンダントが熱くなった……? ____もしも何かあったらさわりながら俺の名前を呼ぶんだ、 ____”社長”じゃなくて”誠”とな、 社長はそう言っていたけど、今、ペンダントに触れてはいるけど、ブラウス越しだし名前は呼んでいない。 だけど……明らかに変化があった。 私の気持ちに反応するみたいに熱を発したの。 不思議に思って熱を感じた手のひらを広げて見てみると……私の手が光っている。 水晶と同じ赤い色で、指先は線香花火のように小さく火花を散らしながら。 ……なに……これ。
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