第十九章 霊媒師 入籍

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恨んでいた、そう聞いた時はドキッとした。 顔も険しくなっていたんだもの。 でも、菅野さんはすぐに表情を緩めてくれた。 『だけどねぇ、恨んだ所で生き返るでも、直樹の役に立てる訳で無し。客商売をしてるとね、色んな人がいるなぁって思うんだ。私を撃つようなお客さんもいれば、見ず知らずの私の為に泣いてくれて、救ってくれる藤田さんもいる。私は息子が心配で、……いや、本当は違う。心配する事なんてなにもない。あの子はしっかりしてるもの。私が……息子と離れたくなかったんだ。未練ですよ。もっと仕事を教えたかった、あの子のお嫁さんが見たかった、出来れば孫にも会いたかった、もっと……一緒にいたかった』 菅野さんは、さっきの私のように泣いていた。 俯いて、時々私を視て、無理に笑って、でもすぐに顔を歪めて。 「……わ、私、菅野さんのお気持ち……わかります。あ……ごめんなさい、生きてるクセにって思いますよね。でも、わかるんです。私、もう家族がいなくて、みんな死んじゃって一人なんです。私も思います、もっといろんな事を教えてほしかった、結婚して安心させたかった、もっとずっと一緒にいたかったって……思います。私と菅野さん、生きてるかそうでないかの違いはあるけど、家族が大事で離れたくないのは同じで、だからわかります。辛いですよね……淋しいですよね。でも……でも、いつか必ず黄泉の国で会えるんです。それまでは離れ離れだけど、永遠のお別れじゃない、」 私はそれを知っている。 だって死者である家族から直接聞いたんだもん。 また会えるんだからそれまで我慢ねと、家族みんなを見送りもした。 光る道がやってきて、大事な家族は道を進んで黄泉の国へと旅立った。 『本当に……あるのか、黄泉の国という所は。おくりびさんの藤田さん言うんだから間違いないのだろうね。それに……死んでから約四か月、不思議な道が何度も来るんだよ。こう……ふわぁっと光り輝く道が、私の足元まで。それを進めば、もう二度と直樹に会えない気がして逝く事が出来なかった。だけど……もう、こんな霊体(からだ)になってしまったし、直樹といつか会えると言うのなら……それを信じて黄泉の国(向こう)で待っているのも良いかもしれないね、』 菅野さんはまだ泣いている、でも……顔をクシャクシャにして笑ってくれた。 そうですよ、黄泉の国で息子さんが来るのを待っていればいい。 黄泉の国(むこう)にはウチ家族もいますから、一緒にお茶でも飲んで、のんびり、ゆっくり、されたらいい。 「えへへ」 『ははは』 目を合わせて笑い合った。 黄泉の国への逝き方はわかってる。 だって菅野さんは言っていた、『不思議な道が何度も来るんだよ』って。 きっとまた来る。 その時に進めばいいんだ。
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