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『藤田さん……私に良くしてくれて本当に感謝しているよ、ありがとうね。それで……こんな事をお願いするのも心苦しいんだけど……黄泉の国へ逝く前に一つだけ聞いてほしい事があるんだ』
申し訳なさそうな顔をする菅野さんは、上目遣いに私を視た。
「お願い事ですか? なんでしょう、私に出来る事ならお手伝いさせていただきますよ」
『そうかい……? ん、ありがたいな。あのね、私ね、最後に直樹に伝えたい事があるんだ。いや、最後じゃないってわかってるけど、これで私が黄泉の国に逝ったら、次に直樹に会えるのは、あの子が寿命を迎える何十年後になる。出来れば、今、逝く前に伝えておきたい事があるの。でも、直樹に私の姿はもちろん、声も聞こえないだろう? だからその……藤田さんが伝えてくれたらなぁって。……ダメかい?』
幽霊でも汗をかくんだな……菅野さんの額を視て、そんな事が頭に浮かんだ。
汗を滲ませ、『無理は承知なんだけど……』と恐縮する菅野さんは、ただでさえ、地面に近い場所にいるのに、余計に小さく視えてしまう。
そうだよね……また会えるけど、それは何十年も後の話。
しばしのお別れ前に気持ちを伝えたいって……わかるな。
でも……問題は直樹さんが、私の話を信じてくれるかどうかだ。
いきなり知らない女の子が、「ここにお父様がいらっしゃいます」とか「お父様の伝言をお伝えします」って言ったところで、怪しまれて終わりなんじゃないかな。
それどころか……下手をすれば、不審者扱いされてしまうかもしれない。
ど、どうしよう……なんて言えば信じてもらえるのかな。
私は頭をフル回転に考え込んでいた。
勇気はいるけど、菅野さんのお願いを断るつもりはないもの。
だってキーマンさんも言っていたじゃない。
____だがな、『ウチにも来てくれ』と言われたら断れない、
____俺のスキルが誰かをハッピーにさせるなら喜んで行くさ!
キーマンさんは失せ物探しのスキルを買われ、現場の仕事以外にも次々依頼を受けたと言っていた。
疲れていたかもしれない、21日も家を空けるほど仕事をこなしていたんだもの。
それでも、誰かを幸せに出来るのならと頑張ったんだ。
キーマンさんは同じ”おくりび”の社員で、それはすなわちファミリーで私のお兄さん。
妹の私が菅野さんを救う事が出来るなら、兄を見習って喜んでお手伝いします。
それにはまずなんて言って外に出てきてもらうかだ。
でも……直樹さんは今は仕事中で、呼び出すのは難しそう。
これは時間を改めた方がいいかな。
そんな事を考えていたからだろうな、私はここが駅近のコンビニ前だって意識が薄くなっていたんだ。
菅野さんと一緒にいる私は、傍から視たら一人で泣いて、笑って、しゃべっている痛い子にしか見えないはず。
きっとそうだ、それでコンビニのお客さんが店長さんに言ったんだ。
外に、店の前に不審な女の子がしゃがみこんでますよって。
だからなんだと思う。
コンビニの自動ドアが内側から開いたの。
そして、菅野さんにそっくりで、なのに髪はフサフサの店員さんが声を掛けてきた。
「お客様、どうかなさいましたか? ずっとしゃがみこまれて体調が悪いのでしたら救急車をお呼びしますが……」
それはなんとかして話がしたいと願っていた直樹さん本人だった。
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