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私と菅野さんは、二人で顔を視合わせて、すぐに直樹さんを見た。
これって呼び出す手間が省けたって事で、またとないチャンスだ。
菅野さんは『直樹! 父さんはここだ!』って一生懸命言うけれど、やっぱり声は届いてないみたいで、代わりに私が返事をしなくっちゃと思ったの。
「あ、あの、ごんめんなさい! 体調、悪くないです。ただちょっと、その……あっ! そう、そうなんです、足が痛くて、靴擦れが酷くて、それで休ませて頂いてました! 勝手にごめんなさい!」
う、うまくごまかせたかな。
靴擦れはウソじゃないし、本当に痛いから、許してくださいね。
直樹さんに菅野さんの姿は視えないんだもの。
いきなりココにお父様がいるんですよと言っても信じてもらえない。
順番に話をしなくちゃだめだ。
「靴擦れ? ……ああ、本当だ、酷いですね。傷テープに血が滲んでいる。これじゃあ歩けない訳だ。良いんですよ、そういったご事情ならいくらでも休んでいってください。もしでしたら、事務所に新しい傷テープがあるから持ってきましょうか」
「や! そんな! 大丈夫です! 私の会社、すぐそこなんです。もうちょっとだけ休ませて頂いたら行きますから。会社に行けば傷テープいっぱいありますから」
「そうですか、それなら良いのですが、もし必要ならお声がけください。それじゃあ私は店に戻りますね」
直樹さんはにっこり笑ってお店に戻ろうとする、けど、ダメ! 行かないで!
「あっ! ちょっと待ってください!」
慌てて呼び止める、呼び止めた後の作戦は……ない。
でも行っちゃったら、次呼び出せるのはいつになるか分からないから、食い下がるしかないんだ。
「はい、どうされました?」
直樹さんは、挙動不審な私なのに、それでも優しく笑ってくれた。
その顔は菅野さんの笑顔にそっくりで、お父さんに似た良い方だなぁなんて思っていたの。
私の横では……直樹さんの顔を近くで視た菅野さんは我慢の限界だったんだろう、声を大きく息子に話しかけたんだ。
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