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直樹さんは片眉を上げて黙ってしまった。
“この子は何を言っているんだ”、と顔に書いてある。
それでも強く言ってこないのは、私の膝が震えてるからかもしれない。
緊張する……信じてもらえない話を強引に進めるなんて、今までした事がない。
どちらかと言えば、意見が対立した時は、私は我慢してしまう方だもの。
菅野さんは、そんな私を視て泣きそうな顔をしていた。
ああ、そんな顔しないでください、笑って黄泉に逝ってほしいです。
私……頑張りますから。
「菅野さん、大丈夫ですよ。さぁ、せっかくです。私、お伝えしますから、何でもおっしゃってください」
社長のペンダントをギュッと握り、精一杯笑って見せた。
これで話しやすくなったかな、なったらいいな。
『ありがとう……藤田さん。あのね、まず……年末のあの日、急に死んじゃってすまなかったと伝えてくれるかな』
隣に立つ菅野さんの言葉、これを目の前に立つ直樹さんに伝える。
「菅野直樹さん、……私は藤田ユリと申します。この先の“おくりび”という会社で事務をしています。どんな会社かというと……失せ物探しをしたり、お祓いをしたり……」
「お祓い……?」
祓うという言葉に直樹さんの顔が一層険しくなった。
怖いよ……泣きそう……
「は、はい。お祓いです。ウチは……その……要は、亡くなった方と生きてる方の間を取り持つ会社です。
信じられないと思いますが、菅野さんのお父様が今ココにいます。お父様は直樹さんに言いたい事があるとおっしゃっていて、それを伝えさせていただきます。まず……『年末のあの日、急に死んじゃってすまなかった』、そうおっしゃっています」
伝えた直後、直樹さんの表情が疑心でいっぱいになった。
無理もないよね……いきなりこんな事……怪しすぎるし、亡くなったお父様がいると言っても、視えない直樹さんからしたら胡散臭いだろうし。
「……父が、ここにいると? 私には視えません。それなのに藤田さんには視えると? 」
優しかった目が鋭くなった……それを隠す気はもうないみたい。
正直逃げ出したい……でも、拝むように両手を合わせる菅野さんを視れば挫ける訳にはいかない。
「は、はい、視えます、それに話も出来ます。菅野さんは私の隣にいらっしゃいます」
隣の菅野さんは何度も頷いている。
ああ、この姿が視えればいいのに。
「……私の父が年末に亡くなった事をなぜあなたが……父がここにいる……? 本当に? あなた……正直そうな顔をしているけど……どうかな。こういう心霊詐欺みたいなのは、よくある話だと聞きます。そしてその詐欺師は一見正直そうな顔をしてると……これもよく聞きます。藤田さんがどこで父の事を知ったのかわかりませんが、これが詐欺だとは言いきれませんよ。こんな世の中だ。疑ってかかるもの無理はないと思いませんか?」
ジロリと私を見る直樹さんは完全に疑っている。
辛いよ……本当なのに。
「わ、私……詐欺なんかしません! 本当にいらっしゃるんです、直樹さんに視えないかもしれないけど、だからって嘘はつきません、」
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