第十九章 霊媒師 入籍

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言い合う私と直樹さんを視た菅野さんはオロオロし始めて、『どうしよ、どうしよ』と呟いている。 本当にどうしたらいいんだろう、どうしたら信じてくれるのかな。 これじゃあ、菅野さんの言葉を伝えられない。 菅野さんは『うーうー』唸ったあと、『あぁ、そうだ!』と大きな独り言をつぶやいてからこう言った。 『藤田さん! 直樹にこれを言ってみて!  私の名前は菅野正直(まさなお)、直樹の名前は私の”直”の字を一つとったんだ。享年55才、好きな食べ物はカボチャとブロッコリー。お肉は苦手で魚が好きで、忙しくて中々行けないけど、直樹と一緒に行く年に一度の釣り旅行が楽しみだった。去年はSヶ島に行くのにフェリーに乗ったよな。船の後部に二人で行って、飛んで追いかけてくるカモメに鳥用の餌を投げたんだ。カモメ達は一つも落とす事なくクチバシでキャッチして、二人してスゴイなぁってはしゃいだだろ。船酔いするかと心配したけど、二人共カモメに夢中になって酔う暇もなく島に着いたんだ。Sヶ島では釣りをして砂金取りをして、旅館に泊まってごちそうを食べた。旅館の女将が二人が釣った魚を捌いてくれたんだ』 ここまでを伝えると、直樹さんは口を開けて固まってしまった。 さっきみたいな怖い目じゃない。 信じられないという顔をして、私を見て、私の隣をジッと見て、小さく首を横に振り、ぎゅっと拳を握りしめている。 菅野さんは『少しは信じてくれるかな……、』と私を視て、さらにこう続けた。 『父さん、あの旅行があるから一年頑張ってこれたんだ……どんなに辛くても、大変でもだ。あぁぁぁ……楽しかったなぁ……直樹……おまえと一緒にいられて父さん幸せだったよ……おまえは私の自慢の息子だ……ああ……なのにごめんなぁ……急に死んじゃって、コンビニ……一人で大変だろう? おまえばっかりに大変な思いさせてごめんなぁ……それが申し訳なくて……おまえと離れたくもなくて……死んでからずっと傍にいたんだ……直樹はしっかりやってくれてる、仕事で心配な事は何一つない、ただ……食事はしっかりとってくれ、それから睡眠も。あと車には気を付けて、うんと長生きしてくれ。将来は家族を持って幸せになってほしい。それとな……直樹、コンビニ、辛かったら辞めてもいいぞ。他にやりたい事があればいつ店を畳んでもいいんだ。父さんの事は気にするな、おまえの幸せが父さんの幸せなんだから』 菅野さんは想いを泣きながら話してくれた。 それを伝えさせていただく私も、もらい泣きをしてしまう。 二人して泣きながら……ああ……ううん、私達だけじゃない。 若い菅野さんもおんなじになっていた。 ”私には父が視えない”と言ってたのに、今だって視えないはずなのに、私を詐欺かもと疑っていたのに。 すぐ目の前にいる直樹さんの頬には、とめどなく涙がつたっていた。
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