第十九章 霊媒師 入籍

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それからさらに。 ひっきりなしに話す菅野さんの想いを伝えさせていただいた。 直樹さんに菅野さんの姿は視えないけど、それでも父と息子にしか分からない話を伝えた事によって疑心は徐々に溶けていったの。 父と息子のしばしの別れ。 伝えたいと強く願った最後の言葉、話すほど直樹さんは身を乗り出して聞いてくれ、そして最終的には受け止めてくれた。 『あぁ……藤田さん、ありがとう……ありがとう。これで思い残す事はないよ』 そう言った菅野さんはしゃくり上げて泣いている。 良かった……伝えられて本当に良かった。 あとは……菅野さんが黄泉の国へと旅立つのを見送るだけ。 どうやって逝けばいいのか、それは光の道を待てばいい。 ____死んでから約四か月、不思議な道が何度も来るんだよ、 ____ふわぁっと光り輝く道が、私の足元まで、 爺ちゃんがまだ現世にいたとき、同じ事を言っていた。 光の道は定期的に迎えに来るって。 …… ………… ………………あぁ、 朝の光を上回る輝きが天から地へと降ってきた。 道行く人達も直樹さんも気が付かない、ただ二人、私と菅野さんだけがそれに気が付いたんだ。 視上げた先、こちらに向かってゆっくりと伸びてくる道は、青空に金色(こんじき)を混ぜながら、視た事のないグラデーションを造りだしていた。 『そういえば……道が来るのはいつだって朝だったなぁ』 「そっか……じゃあ今日も来てくれたんですね、」 『いつもならね……まだ逝かないよって逃げてたけど……』 「今日は……逝かれるんですね」 『うん、逝くよ』 とうとう道は菅野さんの足元まで伸びてきた。 菅野さんは優しく笑い、無い足のかわりに右手をそっと道に乗せた。 その時だった。 ただでさえキラキラと輝く道が一層の輝きを放ち、菅野さんを丸ごと包み込んでしまったの。 何が起きたのか、眩む目を細めながらなんとか菅野さんの姿を探す……と、薄まった光の中で、菅野さんと目が合った。 先程までとは少し違って、私の目線が高くなる。 菅野さんは『あぁ……あぁ……』と顔をクシャクシャにして泣いていた。 それを視て、私もまた泣いてしまった。 だって……菅野さんは幽霊らしくなくなったのだ。 無くなったはずの太ももから下、足が元通りになっていたんだもの。 光の道が治してくれたのかな、もしかしたらそうかもしれないな。 『それじゃあね、私は先に逝くよ。直樹、おまえの人生だ。コンビニを続けても辞めてもどっちでもいい。ただ幸せになってくれ。そしていつか会える時が来たら、直樹の幸せな人生をぜんぶ話して聞かせてくれ。それを楽しみに待っているから。 それと藤田さん、無理を言ってごめんね。あなたのおかげで直樹に気持ちを伝える事が出来た。これで悔いなく旅立てる。……見も知らずの私に声を掛けてくれてありがとう。勇気のある優しい藤田ユリさん。お嬢さんの事は忘れない、さよなら。またいつか会いましょう、』 菅野さんは最後にそう言って、何度も振り返り手を振りながら、光る道を逝ってしまった。
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