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「これが最後の言葉です。菅野さんは笑って逝かれましたよ」
直樹さんのお父様の言葉をすべて伝えた。
ただし……足が無くなっていた事や、霊体に怪我を負っていた事は言っていない。
心配させたくないからと、菅野さんに口止めされたからだ。
菅野さんの言葉を聞き終えた直樹さんは、ゴシゴシと目を擦り私に向かってこう言った。
「…………とてもじゃないけど信じられない……そう思ってたのにな……カモメの話……旅行の話……はは、あれは父と二人だけで行ったんだ。私に父の姿は視えない、けど……あんな話を山ほどされたら、……私は……父と言葉を交わしたんだと、認めない訳にはいかない、」
直樹さんの言葉に泣きそうになった。
頑張って良かった……本当に良かった。
「疑って申し訳なかったです。父は……亡くなってからずっと傍にいてくれたんですね。今思えば……妙な気配を感じた事はありました。ただそれも、気のせいかと思っていて……はは、勿体ない事をしたな。
気持ちがね、前向きになった。だから……そう、コンビニ、辞めませんよ。元々頑張ろうとは思っていたけど、父が働いていたコンビニで、至る所に残っている父との思い出と一緒に頑張りたい。藤田さん、その……ありがとうございました」
目は真っ赤だけど笑ってる。
私もつられて笑った。
良かった……菅野さんも、直樹さんも、良い顔だ。
「わ、私は何もしていません。菅野さんの言葉を伝えただけです」
「いや、それが出来る方は中々いない、感謝しています。
……おっと、すみません。もっとちゃんとお礼が言いたいのですが、レジが大変なコトに……私は店に戻ります。9時を過ぎればピークは過ぎるんですけどね。今は……8時25分か。ラッシュもあとちょっと、頑張らないと、……って、えぇ! 藤田さん!?」
「直樹さん! ごめんなさい!! 今8時25分って言いました? 大変! 私行きますね! ウチ、8時半が始業なんですぅ! 遅刻しちゃうー!!」
直樹さんの話の途中で、申し訳ないけど私は走りだしていた。
背中では「ありがとー! いってらっしゃーい!」と聞こえ、誰かに”行ってらっしゃい”と言ってもらうのは久しぶりで嬉しくなった。
なんだけど……もー!
本当に自分が嫌になっちゃうぅ!
私は一つの事に夢中になると、他が見えなくなってしまうんだ!
社長に8時半ギリギリに来いと言われたけど、遅刻して来いとは言われてない、って当たり前か!
急がなくっちゃ!
あーもー!
足が痛くて早く走れないよ、スニーカーならもっともっと早いのにー!
8時27分。
なんとか会社に滑り込み、3階更衣室まで階段で駆け上がる。
これくらいで息は上がらない。
田舎育ちはこういうトコロ強いんだ。
8時28分。
廊下を走り(本当はダメ)女子更衣室の前に到着っ!
と思ったら、なんだか様子がおかしい……ドアが開けっ放しになっている。
いつもは閉まっているよね……私は走るのをやめ、そーっと中を覗き込んだ。
え……これ……どうしたの……?
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