第十九章 霊媒師 入籍

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____片付けるのは始業時間過ぎてからでいいからな、 社長は気を遣ってそう言ってくれたけど、なんたって今日の私は遅刻ギリギリ。 女子更衣室に一人残って1分経つか経たないかで始業のチャイムが鳴り、私はすぐに片付けを始めた。 散らばったお菓子に、転がる壁掛け時計。 大きなお酒のペットボトルに明後日の方向を向いたソファとテーブル。 それでも、さほど時間はかからなかった。 ついでだからと室内の掃除をしたけれど、1時間もしないうちにすっかり元通りになった。 「ふー、終わったぁ」 整頓された室内を見渡して、キレイになって大満足だ。 散らかっていた床の上はもちろん、窓にかかるブラインドも直したんだから。 なにをどうしたらこうなるのか……ブラインドの羽は可哀そうになるくらいグシャグシャで、これはもう捨てるしかないかな……と思ったけど、ダメで元々、丁寧に整えてあげたら、もうしばらく使う分には問題はないくらいまでに戻ってくれた。 それにしても、一体何があったんだろう。 社長が”早く来るな”と言ったのは、こういう事を予想してたのだろうな。 たまたまコンビニ前で菅野さんと会ってなければ、こんなにギリギリな出社にはならなかったかもしれない。 菅野さんは私に『ありがとう』って言ってくれたけど、私の方こそありがとうございます、だ。 菅野さん……無事に黄泉の国まで逝けたかなぁ。 それともまだ途中かなぁ。 最後、何度も振り返って良い顔で逝ってくれたんだ。 菅野さん、優しかったな。 …… …………あんなに優しい方を霊矢で撃つだなんて、信じられないよ。 私……どんな顔して小野坂さんに会ったらいいんだろう。 これから同じ会社で、一緒にやっていかなくてはならない先輩なのに。 私は事務担当だもの。 交通費の精算や、いろんな手続きで、霊媒師担当の社員さん達と接する機会はたくさんある。 なのに……あんまり怖い人だと私、委縮してうまく話せないかもしれない。 それだと社長に、ううん、小野坂さん本人にも、下手をすれば岡村さんにもキーマンさんにも先代にも迷惑がかかってしまう。 よくないな、このままじゃ。 怖いからとか、嫌だからとか、だからといって接点は持ちませんという訳にはいかない。 だって学校とは違うんだもん、私個人の感情だけで避けていいものじゃない。 だからなんだと思う、社長はさっきこう言っていた。 ____終わったら事務室に来てくれ、 私がいない間に朝からトラブルがあって、社長と岡村さんと小野坂さんで話し合う場に私も同席しろというのは、きっと、これからの事を考えてくれてるからなんだ。 怖いけど……どうしていいか分からないけど……行こう。 大丈夫、社長がいるんだもの。 私は社長を信じてる。
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