第十九章 霊媒師 入籍

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小野坂さんには誰かいたのかな。 私にとって爺ちゃんと婆ちゃんみたいな人。 優しくて、守ってくれて、間違った事をしたらちゃんと叱ってくれるような。 辛い環境に一人では心が潰れてしまう。 味方をしてくれる、そんな人が一人でもいれば救われる。 小野坂さんはどうだったんだろう……? 「施設で辛い思いをしてきたから私の性格は歪んでしまった____なんて言い訳するつもりはありません。きっと元の性分が悪いのでしょう。かと言って私の過去が今の私になんの影響も与えていないとも思いませんが。あの頃の私はとにかく早く自立したかった。施設側も私が成長するにつれ、早く出て行けと言い続けました。だけど、この容姿でしょう? いくら若くたって私の醜さに人は顔を背けます。それに加えてこの性格では就職なんて夢の又夢でした。だから私は姉を頼りました」 お姉さん……? 小野坂さんにご家族がいるの……? さっきの話だと公園に捨てられていたのは小野坂さん一人だったはず。 私の疑問に答えるように、小野坂さんは中にいる社長と岡村さんに向かって話を続けたの。 お姉さま。 と言っても血の繋がりはなく、同じ施設で育った小野坂さんより年上の孤児の女性の事らしい。 その人は、辛く厳しい環境下で唯一の救いだったそうだ。 優しくて、味方でいてくれて、お姉さまに霊感はなかったのに、昔から幽霊が視える小野坂さんの話だって信じてくれた。 幼かった小野坂さんが悪霊に脅かされて泣いていれば、ホウキを振り回して助けようとしてくれ、そしてぎゅっと抱きしめてくれた……そっか、お姉さまは信じてくれたんですね。 幽霊の姿が視えない人に、”私は幽霊が視える”、と言っても中々信じてもらえるものじゃない。 さっきコンビニの直樹さんに、”ここにお父様がいます”と話した時も、心霊詐欺なんじゃないかと疑われたもの。 ん、今の世の中……物騒だものね。 疑った直樹さんに悪気はない、ああ言ってしまうのは仕方がないと思う。 私は信じてもらいたくて、菅野さんの想いを伝えたくて、必死になってお話したけどやっぱり難しかった。 菅野さんが父子にしか分からない話をしてくれなかったら、私だけの説明じゃ、最後まで信じてもらえなかったかもしれない。 小野坂さんは幽霊が視える事を証明するモノは何もなかったはずなのに、それでもお姉さまは信じてくれたんですね。 すごい事です、いいお姉さまです、血の繋がりなんて関係ないんだなって思います。 目に映らなくても、信じてくれる優しい人。 小野坂さんにそういう人がいらっしゃって本当に良かった。
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