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ぶ、ぶつかるぅ!
ずっと同じ体勢で、急に動いて踵が痛くて、思わず椅子に飛び乗ったけど、滑車で滑って目の前には楕円のテーブルが迫ってる!
でも大丈夫!
田舎育ちはこういうトコも強いんだ!
下手によけずにボンッとぶつかり、その勢いで跳ねあがって飛び降りた。
踵はズキズキ熱を持って痛むけど、それ以上に痛いのは、ポカン顔で私を見てる社長と岡村さんの視線。
で、でも、もう引けない……!
「話は聞かせて頂きました! とっくに下に来てたけど、陰でコソコソ聞き耳を立ててたんです!」
私がそう言うと、小野坂さんは無表情ながらジロリと視線をこちらに向けた。
指先が震える、小野坂さんって迫力がある。
ま、負けそう……負けるかも……で、でも、私、が、頑張る……!
ふ、普通に挨拶したんじゃダメだ。
私も小野坂さんと同じ辛い過去を持つ事を先に言うんだ。
同じ土俵に立つ、同じコートに立つ、同じ教室に、……あれ、ちょっと違うかな。
と、とにかく、『アナタじゃ私の気持ちはわからない』そう言われないようにするの。
その上で話をするんだ。
「はい、おはようございます! 実の父親に蹴り飛ばされて気を失っている間に、私を庇った母親を父親に殺された藤田ユリが出勤しましたよっと!」
う、上手く言えたかな?
簡潔に分かりやすく言おうとしたら、すっごく短くなっちゃったけど、伝わったかな?
小野坂さんは相変わらず無表情で、だけど眉毛がピクッと動いて、黙ったまま私を見てる。
黙りなさいとも、アナタに何がわかる、とも言わない。
私に話をさせてくれようとしてる?
無表情すぎてわからない……けど、たぶんそうだ。
それなら……勇気を出して言わせていただきますっ!
「自分だけが辛いと思わないでください! 水渦さん、でしたよね? なんなら私の過去を霊視しますか? 私もそこそこヘビーですよ? だからって私、人を傷付けたいなんて思いません!」
い、言えた……!
だけど動揺しちゃって小野坂さんを”水渦さん”なんて呼んでしまった!
初対面で馴れ馴れしくてごめんなさい!
立ち聞きしてる間、岡村さんが水渦さんと呼んでいたのを聞いていたから移ってしまったんだ。
小野坂さんはまだまだジロリと私を見てて……うぅ……手の汗すごいよ……倒れそう……心臓がドキドキしてる。
頑張れ私。
言いたい事は、もう一つあるじゃない。
むしろこっちの方が重要なの。
小野坂さんに聞かなくちゃ。
社長と結婚したいって本当ですか?
社長の事が好きなんですか?
それだけを聞くつもりだったのに、私の気持ちは隠すつもりだったのに、小野坂さんを”水渦さん”と呼んじゃうくらい動揺していた私は……
「そ、それから水渦さん! さっき言ってた、その、社長と、け、け、け、結婚っ! だなんて絶対認めません! だ、だ、だ、だって、しゃ、社長は、社長は、私と結婚するんですからーーーーっ!」
考えていた事と口から出た事が、自分でも引くくらい違っていた。
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