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◆◆
「ユリ、少し話すか」
上から声が降ってきて、私と大福ちゃんは顔をあげた。
「は……はい、」
声が震える。
でも頑張るよ。
だってこれが最後かもしれない。
だから私の想いをぜんぶ伝えるって、そう決めたんだもの。
社長は返事をした私を見ると……困ったように笑った。
それから小野坂さんと岡村さんを順に見て、今度は露骨に嫌な顔をしながらこう言ったの。
「ここじゃ話せねぇな。ユリ、出よう。外の、おまえが朝いつも勉強してるトコだ」
あ……会社の庭のウッドテーブル。
うん、私もその方がいい。
気持ち、社長以外に聞かれちゃうのは恥ずかしいもん。
岡村さんと小野坂さんに小さくお辞儀をして、歩きだす社長の背中を追った。
なんだけど……痛っ……さっき傷テープを新しくしたばかりなのに。
踵の靴擦れからは血が滲み、靴が当たるたびにジクジクと痛む。
田舎じゃスニーカーばっかりだったからな。
パンプスなんて履きなれないし歩きにくい。
”おくりび”に入社するのに買ったスーツとパンプスだけど、
____動きにくいだろ?
____私服で来ていいぞ、靴もスニーカーでよ、
社長はこう言ってくれた。
本当はその方が楽ちんだけど、それでも、私は毎日スーツとパンプスで出勤してるんだ。
事務の仕事は頑張れば覚えられる……けど、年だけは、どんなに頑張っても縮める事が出来ないもの。
保護者の目線で私を見ている社長に、これ以上子供に見られたくないよ。
ちょっとでも大人に見てほしいと思って、それで、それで、着慣れなくても、足が痛くてもこれなの。
痛いけど、私に”話そう”と言ってくれた社長を待たせる訳にはいかない。
これくらい平気だよ。
田舎育ちは強いんだから。
身体の大きな社長の一歩は大きくて、私は置いて行かれないように小走りになった。
いつもと一緒だな。
仕事が終わって二人で駐車場に向かう時、私のカバンを持った社長はどんどん先に行ってしまう。
普通に歩いていたんじゃ追いつけなんだ……なのに。
事務室を出た廊下の途中。
社長は立ち止まって私を見ていた。
あれ……?
もしかして、待ってて……くれてる……?
とにかく急がなくちゃと、緩めた速度を上げて社長に追いつこうとした。
そんな私を手を上げて止めた社長は、方眉だけを動かしてこう言った。
「ああ、ユリ。走らなくていい、待っててやるからゆっくり来い。……おまえ、足どうした? 痛えのか?」
なんで足が痛い事を知っているんだろう?
そりゃあ靴擦れはしてるけど、歩けないって程じゃない。
社長の前では心配をかけないように、我慢してでも普通に歩いていたのに。
「事務室じゃ気付かなかったけどよ、廊下に出てから足音がいつもと違うから。それで足が痛えんじゃねぇかって思ってな。……ああ、やっぱりそうか。いつからだ? そういうのは早く言え」
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