第十九章 霊媒師 入籍

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◆◆ 「ユリ、少し話すか」 上から声が降ってきて、私と大福ちゃんは顔をあげた。 「は……はい、」 声が震える。 でも頑張るよ。 だってこれが最後かもしれない。 だから私の想いをぜんぶ伝えるって、そう決めたんだもの。 社長は返事をした私を見ると……困ったように笑った。 それから小野坂さんと岡村さんを順に見て、今度は露骨に嫌な顔をしながらこう言ったの。 「ここじゃ話せねぇな。ユリ、出よう。外の、おまえが朝いつも勉強してるトコだ」 あ……会社の庭のウッドテーブル。 うん、私もその方がいい。 気持ち、社長以外に聞かれちゃうのは恥ずかしいもん。 岡村さんと小野坂さんに小さくお辞儀をして、歩きだす社長の背中を追った。 なんだけど……痛っ……さっき傷テープを新しくしたばかりなのに。 踵の靴擦れからは血が滲み、靴が当たるたびにジクジクと痛む。 田舎じゃスニーカーばっかりだったからな。 パンプスなんて履きなれないし歩きにくい。 ”おくりび”に入社するのに買ったスーツとパンプスだけど、 ____動きにくいだろ? ____私服で来ていいぞ、靴もスニーカーでよ、 社長はこう言ってくれた。 本当はその方が楽ちんだけど、それでも、私は毎日スーツとパンプスで出勤してるんだ。 事務の仕事は頑張れば覚えられる……けど、年だけは、どんなに頑張っても縮める事が出来ないもの。 保護者の目線で私を見ている社長に、これ以上子供に見られたくないよ。 ちょっとでも大人に見てほしいと思って、それで、それで、着慣れなくても、足が痛くてもこれなの。 痛いけど、私に”話そう”と言ってくれた社長を待たせる訳にはいかない。 これくらい平気だよ。 田舎育ちは強いんだから。 身体の大きな社長の一歩は大きくて、私は置いて行かれないように小走りになった。 いつもと一緒だな。 仕事が終わって二人で駐車場に向かう時、私のカバンを持った社長はどんどん先に行ってしまう。 普通に歩いていたんじゃ追いつけなんだ……なのに。 事務室を出た廊下の途中。 社長は立ち止まって私を見ていた。 あれ……? もしかして、待ってて……くれてる……? とにかく急がなくちゃと、緩めた速度を上げて社長に追いつこうとした。 そんな私を手を上げて止めた社長は、方眉だけを動かしてこう言った。 「ああ、ユリ。走らなくていい、待っててやるからゆっくり来い。……おまえ、足どうした? (いて)えのか?」 なんで足が痛い事を知っているんだろう? そりゃあ靴擦れはしてるけど、歩けないって程じゃない。 社長の前では心配をかけないように、我慢してでも普通に歩いていたのに。 「事務室じゃ気付かなかったけどよ、廊下に出てから足音がいつもと違うから。それで足が(いて)えんじゃねぇかって思ってな。……ああ、やっぱりそうか。いつからだ? そういうのは早く言え」
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