第十九章 霊媒師 入籍

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私の足音……そんなの覚えててくれたんですか? 靴擦れはずっと痛いけど、今日は特に痛い。 普通に歩いてたつもりだったけど……社長はいつもと違うって気付いてくれて、足が痛いんじゃないかって心配して、だから待っててくれたんだ。 「大丈夫か? スリッパでもありゃいいんだけど、ウチはそういうのねぇんだよ。どうすっか、俺のサンダル履くか?」 ふは……ふはは、社長はお父さんみたいだな。 優しくて、心配性で、いろんな事を教えてくれて、私の事を見てくれている。 「あの、大丈夫です。足は痛いけど、ただの靴擦れだし傷テープも貼ってます。心配かけてごめんなさい。サンダルをお借りしたいけど……ふはは、そしたら社長が裸足になっちゃう。その……ゆっくり歩けば平気です。社長は先に行っていてください」 気付いてくれただけで嬉しい。 心配かけたくないと思うのに、ココロのどこかで心配してほしいと思う私は矛盾してる。 「アホか、置いていけるかよ。ユリが野郎ならな、担いで運んでもいいんだが、さすがに女じゃそういう訳にいかねぇ。とりあえずゆっくり歩け。一緒にいてやるから」 うぅ……そんなコト言われたら諦められなくなっちゃいます。 もう少し手加減してください。 土壇場で駄々をこねたりしたくないもの。 気持ちを伝えきったら諦めるつもり。 自信ないけど、少なくても社長の前では諦めたフリをしようと思ってる。 私の隣で同じペースで歩いてくれる社長。 間違って手とか繋いでくれないかな……ふはは、無理か。 どう間違えたら手を繋ぐんだ、とココロの中で突っ込みを入れている時だった。 後ろから、ちっちゃな足音が聞こえてきたの。 テチテチテチテチテチテチテチテチ! その音に、私と社長でなんとなく振り返ると、え? 大福ちゃん?  綿あめみたいな幽霊にゃんこが、こちらに向かって全力疾走してくるトコで…… 『うなー!』 大福ちゃんは大きく鳴いて、タンッと廊下をひとっ飛び。 両手を広げた真剣な丸顔が高く飛んで……飛んで……飛ん……きゃーっ! ぼふんっ! な、なんで? 大福ちゃんのフワフワおなかが私の顔めがけて降ってきた(や、やわらかくて気持ちい……)。 「ユリ!」 社長の声が慌ててる。 ダイジョブですよ、重くもないし痛くもない。 ただびっくりして、足が痛くてバランスがとれなくて、私は後ろに大きくよろけて……あ、尻もちつくかも……恥ずかし、 ____え!? 後ろに倒れかけた私は、強い力に引っ張られ尻もちをつく事はなかった。 それどころか身体が宙に浮かんでる。 「大丈夫か!?」 社長が助けてくれたんだ……嬉しい……で、でも、こういう時、少女マンガなら、転びそうになった女の子を、男の子が抱きしめて助けるよね。 だけど今、私は両方の脇の下に手を差し込まれ、お父さんが幼い娘を高い高いするのに似た体勢で持ち上げられている、しかも後ろ向きに。
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