2372人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっぶねぇ……」
そう言って、私をそっと降ろしてくれた社長は、大福ちゃんを叱りつけていた。
「なに考えてるんだ! ユリは生身の人間だぞ? ふざけて飛びついて、こんな硬い廊下で転んだら下手すりゃケガする! たまたま俺が隣にいたから良かったものの……大福! 反省しろ!」
『う、うなぁん』
大きな社長に頭から怒られる大福ちゃんは、ショボンと小さくなっていて、見てると可哀そうになってしまう。
普段の大福ちゃんならこんなコトは絶対にしない。
たまたまふざけてしまっただけだと思うんだ。
「社長、そんなに怒らないでください。大丈夫です、ケガもないし痛くもないし。大福ちゃんに悪気はなかったんです、ね?」
『うな』
”うな”、と答える大福ちゃん。
きっと今のは”うん”と言ってるんだ。
「ほら、悪気はないって言ってますよ。それに社長が助けてくれました」
見上げて社長にそう言うと……わわ、すごい汗だ。
こんな顔、初めて見た。
焦っているというか、怒っているというか……私を心配してくれたんだ。
こんな時にダメだと思うけど、すごく嬉しい。
「……まぁ、ユリにケガはなかったからな。今回は許す。大福、もうすんなよ。ユリ、今のでまた、足、痛くなったんじゃないか?」
社長は心配性だなぁ。
大福ちゃんはぶつかってきたけど、痛くなかったし、むしろ……重さを全然感じなかった。
まるでケガをしないように気を遣ってくれたみたいに。
だから本当に、
「大丈夫ですよ。痛くな、」
”いです”と続けようとした時、足元の大福ちゃんが私の足首をペシッと叩いたの。
んん? どうしたの?
下を向いて、大福ちゃんを視て、アイコンタクトで「なぁに?」と聞いて、そんなコトをしてたら、社長が勘違いをしてしまい……
「ユリがうつむいてる……やっぱり痛いんだな? まったく大福め。イタズラしやがって。ほら、手ぇ引いてやるから、痛くないようにゆっくり歩け」
そ、そ、そう言って、ゴツゴツの大きな手が私の手を取ってくれて、
キャーーーーー!!
て、て、て、て、手を繋いでるーーーー!!
しゃ、社長と、わ、わ、私がーーーーー!!
もういい!
足、痛いけど、でも一人で歩けるけど、だけど、もう、このまま、手を繋いでてもらおう!
こんなチャンス、滅多にないもん!
これも大福ちゃんが、おふざけをしてくれたおかげだぁ!
大福ちゃん、アリガト!
社長と手を繋いだまま、足元の大福ちゃんを視ると、そこにはいつもの可愛い顔とは違う……そう、とっても悪そうに笑う猫又ちゃんがいた。
……
…………
………………
もしかして、大福ちゃん。
『うなぁぁぁん(ウニャリ)』
私には『計画通り』と言っているようにしか聞こえない。
大福ちゃん……策士……!
でもありがとー!
最初のコメントを投稿しよう!