第十九章 霊媒師 入籍

77/102
前へ
/2550ページ
次へ
「あっぶねぇ……」 そう言って、私をそっと降ろしてくれた社長は、大福ちゃんを叱りつけていた。 「なに考えてるんだ! ユリは生身の人間だぞ? ふざけて飛びついて、こんな硬い廊下で転んだら下手すりゃケガする! たまたま俺が隣にいたから良かったものの……大福! 反省しろ!」 『う、うなぁん』 大きな社長に頭から怒られる大福ちゃんは、ショボンと小さくなっていて、見てると可哀そうになってしまう。 普段の大福ちゃんならこんなコトは絶対にしない。 たまたまふざけてしまっただけだと思うんだ。 「社長、そんなに怒らないでください。大丈夫です、ケガもないし痛くもないし。大福ちゃんに悪気はなかったんです、ね?」 『うな』 ”うな”、と答える大福ちゃん。 きっと今のは”うん”と言ってるんだ。 「ほら、悪気はないって言ってますよ。それに社長が助けてくれました」 見上げて社長にそう言うと……わわ、すごい汗だ。 こんな顔、初めて見た。 焦っているというか、怒っているというか……私を心配してくれたんだ。 こんな時にダメだと思うけど、すごく嬉しい。 「……まぁ、ユリにケガはなかったからな。今回は許す。大福、もうすんなよ。ユリ、今のでまた、足、痛くなったんじゃないか?」 社長は心配性だなぁ。 大福ちゃんはぶつかってきたけど、痛くなかったし、むしろ……重さを全然感じなかった。 まるでケガをしないように気を遣ってくれたみたいに。 だから本当に、 「大丈夫ですよ。痛くな、」 ”いです”と続けようとした時、足元の大福ちゃんが私の足首をペシッと叩いたの。 んん? どうしたの?  下を向いて、大福ちゃんを視て、アイコンタクトで「なぁに?」と聞いて、そんなコトをしてたら、社長が勘違いをしてしまい…… 「ユリがうつむいてる……やっぱり痛いんだな? まったく大福め。イタズラしやがって。ほら、手ぇ引いてやるから、痛くないようにゆっくり歩け」 そ、そ、そう言って、ゴツゴツの大きな手が私の手を取ってくれて、 キャーーーーー!! て、て、て、て、手を繋いでるーーーー!! しゃ、社長と、わ、わ、私がーーーーー!! もういい! 足、痛いけど、でも一人で歩けるけど、だけど、もう、このまま、手を繋いでてもらおう! こんなチャンス、滅多にないもん! これも大福ちゃんが、おふざけをしてくれたおかげだぁ! 大福ちゃん、アリガト! 社長と手を繋いだまま、足元の大福ちゃんを視ると、そこにはいつもの可愛い顔とは違う……そう、とっても悪そうに笑う猫又ちゃんがいた。 …… ………… ……………… もしかして、大福ちゃん。 『うなぁぁぁん(ウニャリ)』 私には『計画通り』と言っているようにしか聞こえない。 大福ちゃん……策士……! でもありがとー!
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2372人が本棚に入れています
本棚に追加