第十九章 霊媒師 入籍

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社長の目……怖いくらいに真剣だ。 私に好きと言われて困っているはずなのに、事務所でも困った顔をしてたのに、それなのに、嫌な顔もしないで向き合ってくれている。 ああ……キレイな目だなぁ。 今この瞬間、社長の目に映っているのは私だけ。 ドキドキする。 顔が熱くて、耳も熱くて、嬉しくて、切なくて、そのうち溶けてしまうかもしれない。 もし……目の前で、私が溶けて消えてしまったら、社長はどんな顔をするんだろう? 驚くかな、慌てるかな、探してくれるかな、淋しいと思ってくれるかな? 「ユリ、」 頭の中で想像が膨らんで、だけど社長の声に引き戻された。 社長はなんて言うだろう? ううん、本当は分かってる。 ”ごめんな、ユリとは付き合えない” だ。 このあと、私は振られるんだ。 恋愛対象じゃないもの、きっとそんな目では見れない、ユリを好きになれないって言われるの。 それをわかってて”好き”と言ったんだ。 覚悟は出来てる。 「……はい、」 ズキズキ痛む鼻、目の奥が熱くなる、涙が出ないように気持ちを張る。 そんな私を見た社長は困ったように笑い、ふぅと短い息を吐いた。 目を閉じて、一呼吸おいて、もう一度目を開いて、それで、それで、こう言ったの。 「ユリ、ありがとな。俺なんかを好きになってくれてよ」 ううん、ううん、 私が勝手に好きになっただけ、そのせいで社長を困らせてしまっているのに、ありがとうなんて言ってくれて、私、なんて答えていいかわからないよ。 「お前は一生懸命だ。仕事を早く覚えようと人一倍努力してるよな。俺は頑張るヤツが好きだ。特におまえはまだ18なのに、家族もいなくて辛いだろうに、いつも笑ってよ。だから応援したくなる、守ってやりたくなる、俺に出来る事はなんでもしてやりたくなる、」 真剣で優しい顔だった。 いつもの大きな声じゃなく、囁くように、私だけに聞かせるように、丁寧に話してくれる。 社長の言葉の一つ一つが私に沁みて、大声で泣きたくなってしまう。 「だけどな……俺のユリに対する気持ちは恋愛とかそういうんじゃねぇんだ。前にも言ったが保護者の感覚が強い。だがある意味恋愛感情よりも深い。おまえはさ、俺にとって守るべき人間なんだよ」 ”まもるべき人間” ……、向かいに座る社長は身を乗り出して私に言った。 わかってくれと目が訴えている。 ん……だいじょうぶ、社長の言いたい事はわかるし、ありがたいです。 本当に、感謝です。 家族じゃないのに、ただの社員なのに、恋人でもないのに、それでも守りたいと思ってもらえるなんて、これ以上ありがたいコトはないですよね。 わかっているのに、気持ちを伝えられたらそれでいいと思っていたのに、なんでこんなに辛いんだろう?
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