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私は口ばっかりだな。
社長に振られる覚悟は出来てる、そのつもりだったのに、いざ”恋愛対象じゃない”と言われたら、悲しくて辛くて、どうしたら好きになってもらえるだろうと、そればかり考えてしまう。
「……悪いな。こういう時、なんて言ったら良いのかよくわからねぇ。ユリを傷付けたくねぇし、泣かしたくもねぇのによ。……なぁユリ、一度冷静になれ。おまえはまだ18で、俺は34のオッサンだ。今はまだ上京したばかりで交友関係も狭い。だがそのうちこっちの暮らしに慣れて、新しい友達が出来て世界が広がった時、きっと『なんであんなオッサン好きになったんだろ』って笑える日が来るはずだ」
そんな事、思うはずがないじゃない……社長は……なに言ってるんだろう?
「なんだよ、わからないって顔だな。もっと噛み砕いて言うぞ? あのな、ユリが俺の事を好きだと思う気持ちは……恋愛感情じゃねぇよ。去年婆さんが死んで、続けて真さんも死んで、上京して田舎を離れて就職して、いろんな事がいっぺんに起きたんだ。そら心細くなるだろ。そんな時、たまたま近くにいた大人が俺だったんだ。ただそれだけの事で環境が錯覚させたんだよ」
たまたま……?
ただそれだけの事……?
錯覚……?
本当になにを言ってるのかわからない、
社長を好きだと想う気持ちが錯覚で、本当はそうじゃないって言うの?
こんなに好きで、だけどずっと言えなくて、振られる覚悟で、やっとの思いで打ち明けたこの気持ちが錯覚だって言うの……?
「………………ユリ? 聞いてるか?」
テーブル一つ分の距離。
社長が覗き込んでくる。
私は下を向き、唇を強く噛んで涙を堪えた。
社長はなにもわかってない。
一緒にいてどんなに幸せか、どんなに嬉しいか。
送ってくれた社長が帰ってしまったあと、どんなに淋しい想いをしてるか。
なんにもわかってない。
大好きだけど、でも、でも、今言ったのは取り消してほしい。
錯覚なんかじゃない。
「しゃ、社長って……な、なにもわかってないんですね、」
う……棘のある言い方だな。
でも気持ちがおさまらない、これだけは否定したいの。
「わかってない? ユリの気持ちが錯覚だって言った事か? ああ……今のおまえなら反発したくなるのかもな。でもよ、ユリはまだ若いから思い込んでしまうんだ。一度深呼吸をしてだなぁ、」
小さな子供をなだめるように、気を遣ってくれる社長だけど、私はどうしても我慢が出来なかった。
振られるのはいい、でも、私の想いは錯覚なんかじゃない。
嫌いだ、付き合えないと言われた方がぜんぜんマシだよ。
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