第十九章 霊媒師 入籍

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私は口ばっかりだな。 社長に振られる覚悟は出来てる、そのつもりだったのに、いざ”恋愛対象じゃない”と言われたら、悲しくて辛くて、どうしたら好きになってもらえるだろうと、そればかり考えてしまう。 「……(わり)いな。こういう時、なんて言ったら良いのかよくわからねぇ。ユリを傷付けたくねぇし、泣かしたくもねぇのによ。……なぁユリ、一度冷静になれ。おまえはまだ18で、俺は34のオッサンだ。今はまだ上京したばかりで交友関係も狭い。だがそのうちこっちの暮らしに慣れて、新しい友達が出来て世界が広がった時、きっと『なんであんなオッサン好きになったんだろ』って笑える日が来るはずだ」 そんな事、思うはずがないじゃない……社長は……なに言ってるんだろう? 「なんだよ、わからないって顔だな。もっと噛み砕いて言うぞ? あのな、ユリが俺の事を好きだと思う気持ちは……恋愛感情じゃねぇよ。去年婆さんが死んで、続けて真さんも死んで、上京して田舎を離れて就職して、いろんな事がいっぺんに起きたんだ。そら心細くなるだろ。そんな時、たまたま近くにいた大人が俺だったんだ。ただそれだけの事で環境が錯覚させたんだよ」 たまたま……? ただそれだけの事……? 錯覚……? 本当になにを言ってるのかわからない、 社長を好きだと想う気持ちが錯覚で、本当はそうじゃないって言うの? こんなに好きで、だけどずっと言えなくて、振られる覚悟で、やっとの思いで打ち明けたこの気持ちが錯覚だって言うの……? 「………………ユリ? 聞いてるか?」 テーブル一つ分の距離。 社長が覗き込んでくる。 私は下を向き、唇を強く噛んで涙を堪えた。 社長はなにもわかってない。 一緒にいてどんなに幸せか、どんなに嬉しいか。 送ってくれた社長が帰ってしまったあと、どんなに淋しい想いをしてるか。 なんにもわかってない。 大好きだけど、でも、でも、今言ったのは取り消してほしい。 錯覚なんかじゃない。 「しゃ、社長って……な、なにもわかってないんですね、」 う……棘のある言い方だな。 でも気持ちがおさまらない、これだけは否定したいの。 「わかってない? ユリの気持ちが錯覚だって言った事か? ああ……今のおまえなら反発したくなるのかもな。でもよ、ユリはまだ若いから思い込んでしまうんだ。一度深呼吸をしてだなぁ、」 小さな子供をなだめるように、気を遣ってくれる社長だけど、私はどうしても我慢が出来なかった。 振られるのはいい、でも、私の想いは錯覚なんかじゃない。 嫌いだ、付き合えないと言われた方がぜんぜんマシだよ。
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