第十九章 霊媒師 入籍

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好きの想いは絶対に錯覚なんかじゃない。 確かに……上京して一人暮らしが始まって、最初はすごく心細かった。 慣れない土地も、一人の部屋も、なにもかも。 でもね、社長に拾ってもらって、毎日一緒にいるようになってから、私は心細いと思わくなったの。 毎日が楽しくてドキドキして、社長の顔を見れたら幸せで、それだけでいろんな事が頑張れる。 ねぇ、社長。 違うんです、順番が逆なんです。 心細いから好きになったんじゃない。 好きになったから心細くなくなったんです。 社長を好きでいるだけで、私は少し強くなれる。 ただの錯覚なら、強くなんかなれないよ。 ちゃんと言わなくちゃ、 これだけはわかってもらいたい、 なかった事にされたくない、 「……わ、わた、私は、……」 ああ、もうやだぁ…… ココロの中はこんなに言葉が溢れているのに、思うようならないよ。 好きの気持ち大きすぎてはち切れそうで、なのにわかってもらえない。 もどかしくって、感情が昂ぶって、声を出せば涙が溢れてしまいそうで、うまく言葉が出てくれないんだ。 何も言えずにもたつく私に、社長は「ほら、深呼吸しろ」なんて手を伸ばす。 私は言われた通り、大きく息を吸い込んだ……けど、少しも気持ちは落ちつかない。 錯覚だと誤解されたまま、うやむやになるなんていやだよ。 そんな焦りが顔に出てしまったのかもしれない。 私が駄々をこねていると思ったのかな。 眉を下げた社長は、さっきみたいにゆっくりと、まるで小さな子供をなだめる口調になった。 「……だからな、もう一回言うぞ? ユリのその気持ちは恋とかそんなんじゃねぇんだよ。家族みんな死んじまって独りになって心細さを感じてた時に、たまたま近くにいた大人が俺だったんだ」 ちがう、ぜんぜんちがう、 ダメだ、泣きそう……ううん、泣いちゃダメ。 社長は優しいもの、泣いたら困らせる、ちゃんと話が出来なくなる。 「な? わかるか? 上京して1人暮らしで、初めての会社勤めでよ、新しい環境で慣れないことばかりだから心細いんだよ。俺はこの会社の社長でありユリの研修担当だから嫌でも毎日一緒にいなくちゃならねぇ。この環境が錯覚させたんだ。おまえが俺に抱く感情は恋じゃない。“仕事でわからないことを教えてくれる頼れる存在”が、ただの“頼れる存在”に思えて、好きになった気になってるだけだ」 だからちがうの、ちゃんと好きなの、 どうしてわかってくれないの? なんて言ったらわかってくれるの? どう頑張ったら伝わるの?
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