第十九章 霊媒師 入籍

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どうしたらいいのかわからない、頑張る以前の問題だよ。 だって声が出せない。 社長が私を諭せば諭すほど感情が昂るの。 泣かないように唇を強く噛む。 痛みで涙を止めるくらいしか出来ない。 戸惑う気持ちに気付いてくれない社長は、このあと……私が一番気にしている事を言ったんだ。 それは、 「それによ、ユリはまだ18だろ? 俺は34で歳の差が16もあるんだぞ? 今は良くてもユリがやっと30になった時、俺は46。もっと言えば俺が60の還暦ジジィになった時、ユリはまだ44だ。先のことも考えろ、な?」 そんなの……そんなのわかってる。 私が一つ年を取れば、社長も同じように年を取るんだもの、いつまでたっても年の差は埋まらない。 追いつけるなら追いつきたい。 だから頑張ったの、少しでも大人に見られたくて。 着慣れないスーツも、歩きにくいパンプスも、踵が切れても、痛くても、対等になりたいなぁって、恋愛対象に見られたいなって。 踵の靴擦れがジクジクと痛む。 噛んだ唇もヒリヒリするし、届かない想いはズキズキと脈を打つ。 いろんな痛みが止まらなくて、その痛みもはち切れそうに膨らんで、とうとう心の中が満杯を超えた。 感情は昂っているけど、声を出せば泣いちゃうかもしれないけど、そうも言っていられない。 押し出されそうなの。 声が、気持ちが、言いたい事が。 「なんだ? 言いたいことがあるなら、いくらでも聞いてやる。言ってみろ」 社長にこう言われた事で、私の喉がゆっくりと開いていった。 あとは口を開ければ、きっと出てきてくれるはず。 「そんなの、知ってます……!」 あ……言えた、言葉が……出てくれた。 一度出れば後は簡単だった。 気持ちを込めて、伝えたいと強く願って、言葉を発した。 「年のことを言うのはズルイです。どんなに頑張っても変えられないもの。それと私……心細いから社長を好きになったんじゃありません。社長が優しいから、爺ちゃんくらいカッコイイから、そばにいるだけで幸せだから、安心するから……」 ____だから好きなんです、 ____この気持ちは錯覚なんかじゃない、 本当は、ちゃんと最後まで言うつもりだったのに……言葉が止まってしまった。 驚いてしまって、らしくない社長に、目が釘付けになってしまったからだ。 テーブルの向こう側。 私の目の前に座る社長は……顔も、耳も、首も、真っ赤にさせていた。
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