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「ねぇ、社長。なにか気が付きませんか?」
ママを失った幼い私は爺ちゃんの言葉に救われた。
あれから11年、今では爺ちゃんも婆ちゃんもいない。
ひとりぽっちの今の私は社長に救われた。
ただ……当の本人はまったくそんな意識がないみたいだけど。
知ってほしいな、どうしてこんなに好きになったのか。
伝えたくてたまらなくて、テーブル越しに身を乗り出して社長の顔を覗きこんだ。
社長は身体が大きいのに、怖いモノなんて何もないように見えるのに、少しだけ縮んだ距離に驚いた顔をした……けど、すぐに穏やかに笑ってこう言ったんだ。
「ん? なにがだ?」
なにを言ってるのかわからない、そんな顔の社長はなんだか少し子供に見えた。
「もう、やっぱりわかってない」
私はわざと頬を膨らまし、大げさに呆れてみせる。
すると社長は少し慌てて、
「なんだよ? なにがわかってないんだよー、あ、なんだぁ? その顔はぁ。なんだよ、教えろよ、気になるじゃねぇか」
と身を乗り出してきた。
それがすごくおかしくて、私はちょっぴりイジワルをしたんだ。
「すぐには教えてあげません。よーく思い出してください。爺ちゃんが私に言ってくれた言葉……それがヒントです」
さっき言ったもの、思い出したらすぐにわかるはず。
私がどんなに嬉しくて救われたか。
「真さんが言ったコト? んー、なんだ? わかんねぇよ。ユリ、もういっこヒントくれ! な? な?」
両手を合わせてヒントをおねだりする姿は、ぜんぜん年上に見えない。
ねぇ、社長。
年の差ってなんなんでしょうね?
案外、どうってコトないのかもしれませんよ?
「えぇ? これ以上言ったらすぐにわかっちゃいます。私……社長に思い出してもらいたいです」
と、もったいぶってみた。
これはイジワルかな?
ふはは、イジワルだな。
ごめんなさい、いいよね、ちょっとだけだもの。
それに社長も笑ってる。
「なんだよ、それ……ああ、もう、わかったよ! もうちっとだけ考えてみっから大人しく待ってろ!」
負けず嫌いな社長は、腕を組みウンウン唸って考え込んで……こんななんでもないやり取りが楽しくて、
「はい!」
答えた私の声は弾んでいた。
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