第十九章 霊媒師 入籍

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どうしていいのかわからずに、私は石のように動けずにいた。 社長の指から触れた髪がすべり落ち、今度は……大きな手を裏に返して私の頬を撫ぜてくれた。 その手はとてもあたたかくてゴツゴツしてて…… ああ、もう……唇を強く噛んでも、いくら噛んでも意味がない。 私は自分の目に涙が溜まっていくのを、なすすべもなく感じていた。 本当は泣きたくない、社長を困らせるもの。 ちゃんと話が出来なくなるもの。 瞬きひとつで零れそう。 そうなる前に、指で拭ってしまおうと思ったのに、私よりも先に社長が拭ってくれたんだ。 なんで……? なんでそんなコトをするの……? そんなコトをされたら私は、 「ユリ、おまえはもう独りじゃないよ」 え……? なに……? 急に言われて、コトバの意味がわからない、 頭がちっとも追いつかない、 「しゃ、社長……? 私……私は……」 独りじゃないってどういう意味なの? どうとっていいの? 独りじゃないなら誰が一緒にいてくれるの? 私が一緒にいたいのは社長だけ。 だけどそれを望んで、望みすぎて困らせるくらいなら、嫌われるくらいなら、私は諦めようと思っていたのに。 ダメだ……涙がぜんぜんとまってくれない、 私って泣き虫だ、 こんなんだから子供だと思われるんだ、 いやだよ、 だから私は唇を強く噛む、 血が出たってかまわない。 社長は私の口元に気が付くと、一瞬目を見開いて驚いて、そしてすぐに唇に触れたんだ。 あたたかい指で、何度も何度も優しくなぞってくれた、そう、私が噛むのをやめるまで。 「大丈夫だ、泣きたいなら好きなだけ泣け。ガマンするな」 ガマンしなくていいの……? 私が泣いたら困るでしょう? なのにいいの? 不安で社長の顔をジッと見る……と、そこには力の抜けた笑顔があった。 もう、限界かもしれない。 「私……! 私……! ごめんなさい、やっぱりダメ……! 社長のことが好きで好きでたまらないの!」 私は口ばっかりだ、 困らせたくない、 気持ちを伝えるだけでいい、 そう思っていたはずなのに、結局社長に甘えてる、 優しいから、包んでくれるから、そこがあたたかいから、好きで好きで、どんな形でもいいから失いたくなくて……聞き分けの良い振りをしてるだけ。 涙が溢れて止まらないよ、 やっぱり私は社長の”特別”になりたいんだ、
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