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◆◆
「ユリちゃん、本当に良かったねぇ、」
夕方の終業時間少し前。
私以上に半べその岡村さんが、私と社長のコトを喜んでくれている。
先代もおんなじで、「若いっていいねぇ! めでたいねぇ!」と何度も何度も繰り返し、社長に「しつけぇよ!」と笑いながら怒られていた。
ひときわ無表情な小野坂さんはいうと、
「なにもこんなウンコ野郎と一緒にならなくてもいいものを……ですが……まぁ、ユリさん だ け 幸せになってください。清水は不幸になれっ!」
……と、お祝いなのか呪いなのかよくわからないお言葉を頂いた。
私達を霊視いた岡村さんと小野坂さんにたっぷりとお説教した社長が、私と付き合う事になったと先代に報告してくれた時に……
____俺はユリと結婚する、
____当たり前だろ?
きゃ、きゃーーーーーー!
思い出しただけで失神しそう……!
私はまだなにも言われてないのに、社長の中では、その、わ、わ、私と……け、結婚っ! するつもりでいてくれて……ど、どうしよう、こ、これが大人なんだなぁって、私はまだまだ修行が足りないなぁと痛感したんだ。
終業のチャイムが鳴って、岡村さんと大福ちゃん、それから小野坂さんと先代の三人とイチニャンは、そろって会社を後にした。
私は一人で事務室に残り、社長が戻って来るのを待っているんだけど……どこに行ったんだろうな。
ちょっと待ってろ、なんていなくなって15分。
事務室のドアが開いた。
「おう、待たせたな。探し物をしてたんだ」
大股で数歩、あっという間にそばに来てくれた社長は、私の足元に小さなサイズのサンダルを置いてくれた。
「社長……これは?」
それは茶色のサンダルで、おしゃれとは……言い難いけど、機能性重視の履きやすそうなものだった。
「生前、ジジィが使ってた健康サンダルだ。買い換えてすぐに死んじまったからほとんど使ってねぇ。ジジィは小柄だしよ、これならユリでも履けると思ってジジィの机から持ってきた。足、痛えだろ? 女が履くには地味すぎるが今日だけこれで我慢しろ」
私の靴擦れ……忘れないでいてくれたんだ。
嬉しいなぁ……ありがたいなぁ。
「社長……ありがとうございます。で、でもお借りしていいのかな、だってサンダル、先代の形見ですよね、それを私が……」
「いいんだよ、形見っちゃあ形見だけど、死んでも毎日一緒にいるしな。それにジジィもユリが痛がってるの視たら、サンダル使えって言うと思うぞ?」
た、確かに。
「わ、わかりました。じゃあ、今日だけお借りします」
思い切って甘えるコトにした私は、パンプスを脱いで先代のサンダルに足を入れた。
「あ……足の裏が気持ちいい、ツボ押しになってる……」
思わず独り言。
聞いた社長は「ははっ! 良かったな」と楽しそうに笑った。
夕方の光を背中に受けて、逆光が、表情をさらに柔らかくさせていた。
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