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社長は背中を丸めて、私の涙をゴツゴツの大きな手て一生懸命拭ってくれる。
でもぜんぜん間に合わない、溢れてしまって、とめどなくって、だけど社長は、私に「泣くな」とは一言も言わなくて、ずっと優しく拭ってくれて、頭をクシャクシャに撫ぜてくれたんだ。
どのくらいそうしていたのか、私の涙が少しだけ落ち着いて、社長は大きな両手で私の頬を包み込んだの。
ドキンと胸が高鳴って、ぽーっとしながら顔を上げて、見上げて、社長と目が合って、それで、
「これからは”社長”と呼ぶな」
「……は、はい、で、でもな、ずっと社長って呼んでるから、な、なんて呼べばいいのかな」
「普通に”誠”でいいだろ」
「ま、誠!? 呼び捨てはちょっと……年上だし……じゃあ、えっと……”誠さん”?」
「……ん、なんか違えなぁ……”誠さん”とか呼ばれても俺じゃねぇみてぇだ、」
「じゃ、じゃあ、”誠くん”……? ん……これも、な、なんかチガウような……」
「やっぱり呼び捨てで呼べ。俺のコトはみんな大体そう呼ぶしよ」
「”みんな”……? ん……みんなと一緒はやだなぁ……あ、えっと、なんでもないです、独り言です。……んーんー……あ、じゃ、じゃあ、えっと、”マコちゃん”でもいいですか?(こんな強そうな人を”マコちゃん”と呼ぶ人はいないはず……)」
「マ、マコちゃん!? 俺……そんなん呼ばれたコトねぇ」
「よしっ! ……あ、なんでもないです。今のはクシャミです。じゃ、じゃあ、マコちゃんで……その、よろしくお願いします」
「……マ、マコちゃん……俺がか……? ちょっとそれは……いやでも、せっかくユリが考えてくれたんだもんな、……お、おぅ! それでいい! マコちゃんでよろしくな! よし、じゃあチョット呼んでみろ」
「え、えぇ! ……マ、マコちゃ……ゴニョゴニョ」
「声が小せぇぞ、ほら、もう一回!」
「社長……なんか運動部みたいだよぉ……マ、マ、マ、マコちゃん!」
「なんだ?」
「よ、呼びました」
「おぅ、よく言えたな」
「きょ、恐縮です」
「恐縮って……おまえ……可愛いな。ああ、子供っぽいという意味じゃねぇぞ」
社長は……ううん、マコちゃんは、私のほっぺを両手で包んだまま、笑いながらそう言って、そのあとすごく真面目な顔になった。
そして、
「なぁユリ。俺はおまえよりも16も年が上だが、絶対に先に死んだりしねぇ。必ずおまえより後に死ぬ。安心しろ、もう二度と一人にはしねぇから。ワガママもいっぱい言え。泣いてもいいし、怒ってもいい、たくさん甘えろ。してほしい事は大きな声で言えばしいし、してほしくないコトはもっと大きな声で言えばいい。守るから、大事にするから、生きてる間も死んだ後も。永遠にだ」
死んだあとも……永遠に……?
ずっと……ずぅっと一緒に……?
そ、そっか……そうなんだ。
願いが……叶うんだ。
私は社長の“特別”で、社長の目の届く中で生きていけるんだ。
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