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「も、も、もぉ……何回泣かせたら気がすむんですかぁ、あ、ありがとうございます。私も……マコちゃん、大事にします。私より先に死なないでください、1日だけ長生きをしてください、それでそのあとも、ずっと一緒にいてください、私は…………あ……」
大きな手が私の頬を包んだまま見つめ合って、お互いの瞳にお互いの顔が映り込んで、それで、マコちゃんの顔が、少し私に近付いて……ああ、キスを……するのかなって、キスなんてした事ないけど、緊張するけど、怖いとかぜんぜんなくて、初めてキスするのがマコちゃんで良かったと思って……目を閉じたの、
……
…………
………………ん?
…………………………
………………………………あ、あれ?
お、おかしいな、
いつまでたっても何も起こらない、
キ、キスってこういうものなのかな?
口がくっつくまで時間がかかるものなのかな……?
私はそーっと薄目を開けてマコちゃんを見てみたの、
そしたら……
「……きん……キン……筋、三角筋……僧帽筋……上腕筋……大胸筋広背筋大臀筋大腿筋腹斜筋……ハムストリングスゥ!!」
こ、これは……筋肉の……名前かな……?
社長はなにを唱えてるのかな……?
「あ、あの……社長?」
「……社長じゃねぇ、”マコちゃん”だ、」
「ご、ごめんなさい。マ、マコちゃん? どうしたんですか? き、筋肉の名前……お経みたいに唱えてましたけど……」
「心頭を滅却してた、あやうい所だった、」
そう呟いたマコちゃんの額には玉の汗がブワッと浮かび、私の頬から両手を離すと、かわり、自分の頬に強烈な張り手をした。
「マ、マコちゃんっ!? そんなコトしたら痛いですよぉ!」
「いいんだ、悪かった。許してくれ。まだ入籍前だってのに、真さん達に許しももらってねぇのによ、己の欲に呑まれる所だった……!」
「え……欲って……」
「ユリ、急に怖かっただろう? 悪かった」
「やぁ……あの、怖くなかったです、むしろ私も……キス……したかっ、」
自分を責めるマコちゃんに、私もキスしたかったですと、勇気を出して言いかけたのに、ぜんぜん耳に入っていない。
「猛省した、入籍するまではケジメなのによ……クソッ! これは俺の鍛え方が足りねぇんだな。明日から一時間早く起きる、親父に頼んで組手試合に付き合ってもらおう、それからベンチプレスと走り込みと、」
「そ、そんなに? だ、だから、その、私も……ドンと来いって思ってて……って、だ、だめだ、聞いてないよぉ……キス……入籍するまで延期なのか……はぁ……もう明日入籍したいなぁ」
ガックリと肩を落とす私の前で、マコちゃんは力強く雄叫びを上げた。
「ダァッシャッ!! よしっ! 気合入ったぁ! もう大丈夫だ! という事で帰るぞ、」
急に普通に戻ったマコちゃんは、当たり前のように私のカバンを持ってくれて……
「ほら、手、」
と大きな右手を差し出してくれたの。
手……繋いでくれるの……?
私は手のひらをスカートでゴシゴシこすり、おずおずとその手を……握った。
あったかぁ……
ボンッと一気に熱が上がる、せっかく拭いた手のひらにはもう汗が、心臓は躍り出し、胸の奥がきゅうっと甘く掴まれる。
私のペースに合わせてくれるマコちゃんは、普段よりもうんとゆっくり歩いてくれた。
昨日と同じようでぜんぜん違うよ。
そうか……私、本当にマコちゃんのお嫁さんになるんだ。
一緒に歩いていけるんだ____
____夢ならどうか、
どうか覚めないでいてください。
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