第十九章 霊媒師 入籍

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「も、も、もぉ……何回泣かせたら気がすむんですかぁ、あ、ありがとうございます。私も……マコちゃん、大事にします。私より先に死なないでください、1日だけ長生きをしてください、それでそのあとも、ずっと一緒にいてください、私は…………あ……」 大きな手が私の頬を包んだまま見つめ合って、お互いの瞳にお互いの顔が映り込んで、それで、マコちゃんの顔が、少し私に近付いて……ああ、キスを……するのかなって、キスなんてした事ないけど、緊張するけど、怖いとかぜんぜんなくて、初めてキスするのがマコちゃんで良かったと思って……目を閉じたの、 …… ………… ………………ん? ………………………… ………………………………あ、あれ? お、おかしいな、 いつまでたっても何も起こらない、 キ、キスってこういうものなのかな? 口がくっつくまで時間がかかるものなのかな……? 私はそーっと薄目を開けてマコちゃんを見てみたの、 そしたら…… 「……きん……キン……筋、三角筋……僧帽筋……上腕筋……大胸筋広背筋大臀筋大腿筋腹斜筋……ハムストリングスゥ!!」 こ、これは……筋肉の……名前かな……? 社長はなにを唱えてるのかな……? 「あ、あの……社長?」 「……社長じゃねぇ、”マコちゃん”だ、」 「ご、ごめんなさい。マ、マコちゃん? どうしたんですか? き、筋肉の名前……お経みたいに唱えてましたけど……」 「心頭を滅却してた、あやうい所だった、」 そう呟いたマコちゃんの額には玉の汗がブワッと浮かび、私の頬から両手を離すと、かわり、自分の頬に強烈な張り手をした。 「マ、マコちゃんっ!? そんなコトしたら痛いですよぉ!」 「いいんだ、悪かった。許してくれ。まだ入籍前だってのに、真さん達に許しももらってねぇのによ、己の欲に呑まれる所だった……!」 「え……欲って……」 「ユリ、急に怖かっただろう? 悪かった」 「やぁ……あの、怖くなかったです、むしろ私も……キス……したかっ、」 自分を責めるマコちゃんに、私もキスしたかったですと、勇気を出して言いかけたのに、ぜんぜん耳に入っていない。 「猛省した、入籍するまではケジメなのによ……クソッ! これは俺の鍛え方が足りねぇんだな。明日から一時間早く起きる、親父に頼んで組手試合に付き合ってもらおう、それからベンチプレスと走り込みと、」 「そ、そんなに? だ、だから、その、私も……ドンと来いって思ってて……って、だ、だめだ、聞いてないよぉ……キス……入籍するまで延期なのか……はぁ……もう明日入籍したいなぁ」 ガックリと肩を落とす私の前で、マコちゃんは力強く雄叫びを上げた。 「ダァッシャッ!! よしっ! 気合入ったぁ! もう大丈夫だ! という事で帰るぞ、」 急に普通に戻ったマコちゃんは、当たり前のように私のカバンを持ってくれて…… 「ほら、手、」 と大きな右手を差し出してくれたの。 手……繋いでくれるの……? 私は手のひらをスカートでゴシゴシこすり、おずおずとその手を……握った。 あったかぁ…… ボンッと一気に熱が上がる、せっかく拭いた手のひらにはもう汗が、心臓は躍り出し、胸の奥がきゅうっと甘く掴まれる。 私のペースに合わせてくれるマコちゃんは、普段よりもうんとゆっくり歩いてくれた。 昨日と同じようでぜんぜん違うよ。 そうか……私、本当にマコちゃんのお嫁さんになるんだ。 一緒に歩いていけるんだ____ ____夢ならどうか、 どうか覚めないでいてください。
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