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◆
…………リ、
……ユ……リ……
…………ユリ…………、
誰かが私を呼んでる……やだ……起きたくないよ……
夢なら覚めないでってお願いしたのに……
……ユ……ユリ……
……ユリ……
……ユ……
「ユリ、」
あ……この声は……
「……マコちゃん、」
車の助手席。
倒れたシートで目を開ければ、私をのぞきこむマコちゃんがいた。
「ユリ、会社に着いたぞ。起きられるか? 」
「……ん……起きる……私……また寝ちゃった」
今日こそは、寝ないでおしゃべりしたかったのに。
なんでいつも眠くなっちゃうんだろう……もったいない。
会社裏手の駐車場。
いつもの場所に車を停めたマコちゃんは、運転席に座ったままドアを開けようとしない。
かわりに……
身体をこちらに向けて、腕が伸びてきたなと思ったら、グズグズと横になる私の前髪を撫ぜてくれた。
「マ、マコちゃん、誰か来たら見られちゃうよ、」
慌てて起きてこう言ったのに、大人のマコちゃんは涼しい顔なの。
「大丈夫だ。この時間じゃあ、ウチの連中は誰も出勤してこねぇ。そんな事より体調は大丈夫か?」
「うん、ぜんぜん大丈夫。すごく元気だよ。……マコちゃん、またシート倒してくれたんだね」
「ああ、よく寝てたからな。信号待ちで倒しておいた」
「そ、そか。ありがと」
マコちゃんはよくこれをする。
私が助手席で寝てしまうと、起こせばいいのにそうはしなくて、車が止まったタイミングでシートを倒すんだ。
それで、ジャケットを上からかけて、起こさないようにしてくれるの。
「私、本当は寝ないでおしゃべりしたいのになぁ」
いつだって眠いのは私だけ。
マコちゃんは私よりももっと早起きなのに。
____己の欲に呑まれる所だった……!
結婚しようと決めたあの日。
私にキスしようとしたマコちゃんはこう言って、”己に打ち勝つ為!”と、毎朝早くに起きている。
早朝から走り込みとベンチプレス、それからお義父さん相手に組手の特訓をしてるんだけど……私には起きてこなくていいと寝かせておいてくれるんだ。
マコちゃんは眠くないのかな。
無理してないのかな。
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