第十九章 霊媒師 入籍

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「マコちゃんこそ体調は大丈夫? だって私より早起きだし、朝も夜もトレーニングしてる。一日会社で仕事もして、行きも帰りも運転して……本当は疲れてない? 無理して……もしもマコちゃんが先に死んじゃったら……わ、私……」 想像だけで悲しくなって、涙がじわじわ出てしまう。 ”泣くな”と言わないマコちゃんに甘えている私は、前よりもっと泣き虫になってしまった。 「大丈夫だ、体調はまったく問題ない。俺は元霊媒師だからな。現場に出れば移動距離はもっとある。進捗によっちゃあ徹夜もザラだ。相手が聞き分けのねぇ幽霊(ヤツ)なら、力尽くでいかなきゃなんねぇ。社長業なんてよ、現場に比べりゃヌルいんだ。これくらいじゃあミリも疲れねぇよ。だから心配すんな。……っと、ユリ、ほらティッシュだ。鼻チーンしろ」 そう言ってマコちゃんは笑った。 その笑顔をじーっと見れば……うん、早起きだけど目の下にクマはない。 顔色も良いし目に力がある。 手を伸ばしてほっぺをさわってみれば、ホカホカとあたたかく、かといって熱いというんでもない……これなら大丈夫かな。 私にされるがままで大人しいマコちゃんは、 「健康チェックは終わったか? おまえは健康だけは口うるさいよな」 と大袈裟に肩をすくめた。 だから私も大袈裟にやりかえす。 「あたりまえです。マコちゃんにはうんと長生きしてもらわないと。私を一人にしないって約束したもの。ふははは、覚悟してくださいね。これからも、ずぅっと口うるさくするんだから、」 ふふん、とワザと威張ってみせた。 きっとマコちゃんは、”ヤレヤレ”と困ってくれるはず。 繰り返しのやりとりはいつものコトで、私はこれが楽しくてたまらない。 なのに今日は違ったの。 ”ヤレヤレ”のかわりにマコちゃんが言ったのは…… 「いつも心配してくれてありがとな。ユリ、大好きだ」 ああ……もう。 いつものふざけっこだと思っていたのに。 不意打ち、ダメ、たおれちゃう、 体温が一気に上がる。 手のひらに汗をかく。 耳までジンジン熱くなる。 一緒に住んで約二ヶ月。 家でも会社でも、毎日顔を合わせてるのに、いつだってドキドキさせられる。 私はもう、顔を上げているコトが出来なかった。
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