2371人が本棚に入れています
本棚に追加
「ユリ、こっち向け。顔隠すな」
人の気も知らないマコちゃんは、俯く私をしつこいくらいに覗き込む。
嵐さんにはそこまでしないのに、私が照れると面白がってからかうの。
マコちゃんの”特別”になる前は、こんなにからかったりしなかったのになぁ。
いつだって余裕で、落ち着いていて、なんて大人なんだろうと思ってた。
ううん、そりゃあ今だって大人だなって思うけど、だけど、こういう子供っぽいところも……ふはは、あるんだよね。
一緒にいればいるほど年の差が曖昧になる。
新しいマコちゃんがいっぱい出てくるんだ。
幸せだなぁ……からかわれても、しつこくされても、マコちゃんが楽しそうだと力が抜けて笑ってしまう。
「あ、笑った。よくわかんねぇけど楽しいか? おまえが楽しいと俺もなんだか楽しいぞ」
ふはは、今私もおんなじコト考えてた。
私、毎日笑ってる、毎日すごく楽しいよ。
「じゃあ、そろそろ行くか。忘れ物ねぇか? 婚姻届け持ってきたか?」
「うん、カバンの中に入れてある」
そう、いよいよ来週は市役所に行く。
二人は本当の夫婦になるの。
そのための婚姻届け、それを今日持ってきたのは……
「岡村さん、こんなコト頼んだら驚いちゃうかな?」
私がそう聞くと、マコちゃんは笑いながらこう言った。
「あー、驚くかもなぁ。でもエイミーなら大丈夫だろ。ははっ! 下手すりゃアイツ、泣き出すかもしれねぇな」
あ、ありうる……すごく優しい人だもの。
岡村さんには感謝しかないよ。
ママを救ってくれて、
上京したあの日、道で私を見つけてくれて、
事務の欠員が出た時だってそう、
____ウチの会社で働かない?
岡村さんが誘ってくれた。
岡村さんがいなかったら、私とマコちゃんは結婚しない。
それどころか……出逢う事も出来なかったと思う。
そしたら今頃、あのアパートで一人きり。
毎日きっと泣いていた。
岡村さんのおかげだもの。
だからお願いしたいんだ。
婚姻届けの私の証人は、岡村さんになってほしい。
最初のコメントを投稿しよう!