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駅を背中に真っ直ぐ100m。
男の足なら1分で到着するのがウチの会社、【株式会社おくりび】だ。
レンガの外壁、三階建ての古いビルは、青々とした蔦が全体を覆う。
レンガの茶色と蔦の緑が混じり合う外観は、見た目がキレイでレトロな雰囲気なものだから、時折、知らない人が立ち止まって眺めていたり、写真を撮ったりしてるのだ。
僕も何度か見た事があるけど、これがずっと気になっていた。
社長は良くも悪くもアバウトだから、
「そういやいるな。ま、写真くれぇ好きに撮らせとけよ」
と言うのだが、いや待って。
立ち止まる人達が全員揃って善人なら問題ないけど、その中に、もしも悪い人が混ざってたらどうするの。
眺めているふりをして、なんらか悪い事を企んでたら、なんらかの下見だったら……マズいでしょ。
僕が社長にそう言うと、「大袈裟だな」と笑ったけども、よく考えてくださいよ。
これから繁忙期になって、事務所にユリちゃんしかいない時、悪い奴らが押し入ってきたらどうするんですか。
そこでようやくハッとした社長が、
「ユリが危険じゃねぇか! 俺は決めたぞ! 繁忙期になっても現場には行かねぇ!」
と大騒ぎ。
てか、言った僕まで不安になって、
「そうですよね……わかりました! 僕が社長の分まで頑張ります! だからユリちゃんのそばにいてあげて!」
と一緒になって大騒ぎ。
そんな僕らを止めに入ったのは、当のユリちゃんだった。
「わ、私は大丈夫です。だって一人じゃない、先代が一緒にいてくれるもの」
聞けば、事務担当になったばかりのユリちゃんは、この短期間でほぼほぼ仕事を覚えてしまった……が、そうは言っても入社して間もないのだ。
基本は分かっていても、イレギュラーが発生した時に、聞く人が誰もいないのでは困ってしまう。
そこで先代だ。
社長同様、事務の仕事も熟知している手練れなお爺ちゃんは、ユリちゃんと一緒に事務所に残ってくれると言うのだ。
「でもよ、ジジィは幽霊だから、生者に物理干渉できねぇだろうが。やっぱり俺が残るしかねぇ、」
鋭い目つきで決断した社長だったが、
「それも大丈夫です。先代がね、私が一人の時は会社に生者除けの結界を張ればいいって。そうすれば誰も近付けないでしょう?」
生者除けの結界……って、あれか!
水渦さんの負の感情で作られた強力アイテム。
現場で使うだけだと思ってたのに、こういう使い方もあるのね。
基本ウチの会社は、依頼者からの申し込みや問い合わせはメールか電話。
いきなり飛び込みでやってくるというのは、ほとんどない(ゼロじゃないらしいけど)。
まぁね、服や小物のショップとは違うから、ふらっと寄ってみようとはまずならないもん。
だから来客は予約を頂いてからなんだ。
生者を除けても、会社的に困る事はない。
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