第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ 駅を背中に真っ直ぐ100m。 男の足なら1分で到着するのがウチの会社、【株式会社おくりび】だ。 レンガの外壁、三階建ての古いビルは、青々とした(つた)が全体を覆う。 レンガの茶色と(つた)の緑が混じり合う外観は、見た目がキレイでレトロな雰囲気なものだから、時折、知らない人が立ち止まって眺めていたり、写真を撮ったりしてるのだ。 僕も何度か見た事があるけど、これがずっと気になっていた。 社長は良くも悪くもアバウトだから、 「そういやいるな。ま、写真くれぇ好きに撮らせとけよ」 と言うのだが、いや待って。 立ち止まる人達が全員揃って善人なら問題ないけど、その中に、もしも悪い人が混ざってたらどうするの。 眺めているふりをして、なんらか悪い事を企んでたら、なんらかの下見だったら……マズいでしょ。 僕が社長にそう言うと、「大袈裟だな」と笑ったけども、よく考えてくださいよ。 これから繁忙期になって、事務所にユリちゃんしかいない時、悪い奴らが押し入ってきたらどうするんですか。 そこでようやくハッとした社長が、 「ユリが危険じゃねぇか! 俺は決めたぞ! 繁忙期になっても現場には行かねぇ!」 と大騒ぎ。 てか、言った僕まで不安になって、 「そうですよね……わかりました! 僕が社長の分まで頑張ります! だからユリちゃんのそばにいてあげて!」 と一緒になって大騒ぎ。 そんな僕らを止めに入ったのは、当のユリちゃんだった。 「わ、私は大丈夫です。だって一人じゃない、先代が一緒にいてくれるもの」 聞けば、事務担当になったばかりのユリちゃんは、この短期間でほぼほぼ仕事を覚えてしまった……が、そうは言っても入社して間もないのだ。 基本は分かっていても、イレギュラーが発生した時に、聞く人が誰もいないのでは困ってしまう。 そこで先代だ。 社長同様、事務の仕事も熟知している手練れなお爺ちゃんは、ユリちゃんと一緒に事務所に残ってくれると言うのだ。 「でもよ、ジジィは幽霊だから、生者に物理干渉できねぇだろうが。やっぱり俺が残るしかねぇ、」 鋭い目つきで決断した社長だったが、 「それも大丈夫です。先代がね、私が一人の時は会社に生者除けの結界を張ればいいって。そうすれば誰も近付けないでしょう?」 生者除けの結界……って、あれか! 水渦(みうず)さんの負の感情で作られた強力アイテム。 現場で使うだけだと思ってたのに、こういう使い方もあるのね。 基本ウチの会社は、依頼者からの申し込みや問い合わせはメールか電話。 いきなり飛び込みでやってくるというのは、ほとんどない(ゼロじゃないらしいけど)。 まぁね、服や小物のショップとは違うから、ふらっと寄ってみようとはまずならないもん。 だから来客は予約を頂いてからなんだ。 生者を除けても、会社的に困る事はない。
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