第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

3/267
前へ
/2550ページ
次へ
とまあ、”ユリちゃん、事務所に一人になっちゃって大丈夫!?”問題が解決したところで、ようやく社長は、例年通り現場に出る事に同意した。 ただ、念には念を入れ、今後は建物を眺めていたり写真を撮ったりしてる人に、積極的に声を掛けようという事になった。 とは言っても、世間話をしろと言うんじゃない。 見かけて通り過ぎる時、”おはようございます”なり、”こんにちは”なり、挨拶をしようとなったのだ。 挨拶をされて嫌な気分になる人はまずいない。 ましてや、挨拶をした人間が、それまで眺めていた建物に入っていったならなおさらだろう。 もし、不審な態度を取る人がいれば、そこで改めていろいろ話しかけるのだ。 話しかけて、しどろもどろになるようなら、なんらか悪事を考えていると判断し、その時は……悪いけど霊視させていただく(ぼ、僕はまだ出来ないけど)。 そんな方法で不審者対策を立てたのだが、これにはもう一つ、大きな効果が期待される。 もしだよ、悪い人が悪い事を考えて、ウチの会社を下見してる最中に、ガッチガチのムッキムキの社長やジャッキーさんが声を掛けてきたら……”えっ! この会社ってこんなんいるの!?”って怯むと思うの。 逆に言えば、僕が声をかけたら ”楽勝っ!” って思われる危険性もある、諸刃の剣なんだけどさ。 おっと……なんてコトを考えていたら、さっそくウチの会社を眺めている若者を発見。 前方目測2メートル弱。 その若者は会社の門で立ち止まり、ゆっくりと顔を動かしながら建物全体を眺めていた。 年の頃は……20才(ハタチ)前後といったところか。 細身で、長めのサラサラ黒髪が風に吹かれて揺れている。 グレイのパンツに白いシャツを着た……男性だ。 飾り気のないシンプルすぎる服なのに、全体的に地味なのに、なぜか目を引いた。 男性にしては肌が白く、鼻は高めでスッとして……キレイな人だ。 だから目を奪われるのかな、……いや、それだけじゃない。 一番気になるのは彼の瞳だ。 建物を眺めるその瞳は、穏やかで、それでいてどこか淋し気だった。 挨拶……してみようかな。 どっちにしたって彼の後ろを通り、門を通過しなければ会社に入れない。 そのタイミングで、おはようございますと言えばいいんだ。 彼はどんな反応をするのだろう。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2370人が本棚に入れています
本棚に追加