2370人が本棚に入れています
本棚に追加
とまあ、”ユリちゃん、事務所に一人になっちゃって大丈夫!?”問題が解決したところで、ようやく社長は、例年通り現場に出る事に同意した。
ただ、念には念を入れ、今後は建物を眺めていたり写真を撮ったりしてる人に、積極的に声を掛けようという事になった。
とは言っても、世間話をしろと言うんじゃない。
見かけて通り過ぎる時、”おはようございます”なり、”こんにちは”なり、挨拶をしようとなったのだ。
挨拶をされて嫌な気分になる人はまずいない。
ましてや、挨拶をした人間が、それまで眺めていた建物に入っていったならなおさらだろう。
もし、不審な態度を取る人がいれば、そこで改めていろいろ話しかけるのだ。
話しかけて、しどろもどろになるようなら、なんらか悪事を考えていると判断し、その時は……悪いけど霊視させていただく(ぼ、僕はまだ出来ないけど)。
そんな方法で不審者対策を立てたのだが、これにはもう一つ、大きな効果が期待される。
もしだよ、悪い人が悪い事を考えて、ウチの会社を下見してる最中に、ガッチガチのムッキムキの社長やジャッキーさんが声を掛けてきたら……”えっ! この会社ってこんなんいるの!?”って怯むと思うの。
逆に言えば、僕が声をかけたら ”楽勝っ!” って思われる危険性もある、諸刃の剣なんだけどさ。
おっと……なんてコトを考えていたら、さっそくウチの会社を眺めている若者を発見。
前方目測2メートル弱。
その若者は会社の門で立ち止まり、ゆっくりと顔を動かしながら建物全体を眺めていた。
年の頃は……20才前後といったところか。
細身で、長めのサラサラ黒髪が風に吹かれて揺れている。
グレイのパンツに白いシャツを着た……男性だ。
飾り気のないシンプルすぎる服なのに、全体的に地味なのに、なぜか目を引いた。
男性にしては肌が白く、鼻は高めでスッとして……キレイな人だ。
だから目を奪われるのかな、……いや、それだけじゃない。
一番気になるのは彼の瞳だ。
建物を眺めるその瞳は、穏やかで、それでいてどこか淋し気だった。
挨拶……してみようかな。
どっちにしたって彼の後ろを通り、門を通過しなければ会社に入れない。
そのタイミングで、おはようございますと言えばいいんだ。
彼はどんな反応をするのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!