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飛び交う疑問符、隠しきれない戸惑い、そういったものが顔に出てしまったのだろう。
目の前の若者は、僕を見て、目を丸くしてすぐ細め……そして声は出さずに静かに笑った。
「……”なにを言ってるんだろう?” って、思いますか?」
コクコクコク。
僕は素直に頷いた。
出来れば理由を聞かせてほしい。
僕一人じゃ非力だけど、ウチには先代も社長もみんなもいる。
雨も太陽も久しぶりなんて、普通じゃないもの。
20才そこそこの若者が、何か事情を抱えているなら、もしそれで困っているなら……出来る事はしてあげたい。
「あの……雨も太陽も目にしない生活って、どういう事なんでしょう? 普通はあり得ない。もし……もしも、なにか事情があるのなら、その、嫌でなければ聞かせてもらえたらなぁって、……あっ! すみません、突然。怪しい者ではないです。僕はこの蔦の会社の社員で岡村と言います。会社も決して変なトコじゃないです、物を売りつけたりもしませんし……(ゴソゴソ)あった、これ、僕の名刺です」
僕はジャケットの内ポケットから取り出した名刺を渡しながら一気に話した。
もしかしたら、ただのお節介かもしれない。
だけどね、ウチのユリちゃんや嵐さんと年の変わらない若い子が、特殊な環境下に置かれているかもと思ったら……勇気がいるけど、大人は事情を聞くべきだと思うんだ。
事情を聞いて、なんにもなければそれでいい。
お節介なオッサンがいた、と思われるくらいなんともない。
むしろそれなら安心だ。
若者は僕と名刺を交互に眺め、息を漏らして微笑んだ。
そして、
「岡村さん、ありがとう。……私なんて……どこの馬の骨ともわからないというのに、あなたはこうして心配してくれる。……心優しい”希少の子”、ふふ、平ちゃんから聞いた通りだ、」
若者は、僕を”希少の子”と呼んだのだ。
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