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たっぷりの沈黙が流れた。
僕の心臓が速くなる。
確かにこの子は”希少の子”と言った。
こんな言葉を口にするのは、島根の瀬山一族と……先代と僕、くらいなもので他にはいない。
「今……”希少の子”って言いましたよね、……なぜその言葉を知ってるんですか?」
もしかして、この子は瀬山一族の関係者なのだろうか?
若者は微笑むだけで答えようとはしなかった。
かわりに手をスッとあげると、僕に向かって差し出したんだ。
まるで握手を求めるように。
なぜ今、急にそんな事を?
僕はその手をしばし見た。
何を言わんとしてるのか……薄く、本当に薄く、分かりかけた気がした。
けれど確信ではない。
だってこの容姿、先代から聞いた話ではありえないはずだもの。
確かめずにはいられない。
僕は吸い込まれるように手を伸ばす。
差し出さす手は指が細く、白魚のような……という表現がぴったりだった。
手を伸ばし……指先が微かに触れた。
瞬間、パチッと電気が発生し一瞬腰が引けた。
だが、意を決してその手を握った。
最初はそっと、徐々にチカラを込めていく。
____ゾクリ、
6月下旬。
梅雨明け宣言にはまだ遠いこの時期は、雨がなくとも湿度が高い。
少し歩いただけで、いや、ジッとしていたって汗をかく。
なのに、僕の身体は鳥肌が立つほど冷たさを感じていた。
そうか……そうだったのか、
僕らは向かい合い、握手をしたままお互いを見た。
失礼を承知でまじまじと顔を視る。
そして切り出した。
「…………この冷たさ、生者ではありえませんよね、」
確信を持ってそう聞くと、
「そうだろうね」
若者は眉を下げて恥ずかしそうに笑った。
良すぎるこの目は、生者も死者も同じに映す。
だけどこの手は氷よりも冷たい。
こんなの放電して確かめるまでもない。
『岡村さん、』
その人は僕の名を呼んだ。
優しい顔で、柔らかく笑って。
『生きていた頃……私は霊媒師で、たくさんの霊達に触れてきました。
それが今……昔とさかさまだ。今は私が霊で、もう一人の”希少の子”に触れられているのだもの。不思議な感覚です。
…………はじめまして。私は平ちゃんの友人で、名前は瀬山彰司と言います、享年70才です、』
……
…………
やっぱり、そうだったのか。
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