第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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たっぷりの沈黙が流れた。 僕の心臓が速くなる。 確かにこの子は”希少の子”と言った。 こんな言葉を口にするのは、島根の瀬山一族と……先代と僕、くらいなもので他にはいない。 「今……”希少の子”って言いましたよね、……なぜその言葉を知ってるんですか?」 もしかして、この子は瀬山一族の関係者なのだろうか? 若者は微笑むだけで答えようとはしなかった。 かわりに手をスッとあげると、僕に向かって差し出したんだ。 まるで握手を求めるように。 なぜ今、急にそんな事を? 僕はその手をしばし見た。 何を言わんとしてるのか……薄く、本当に薄く、分かりかけた気がした。 けれど確信ではない。 だってこの容姿、先代から聞いた話ではありえないはずだもの。 確かめずにはいられない。 僕は吸い込まれるように手を伸ばす。 差し出さす手は指が細く、白魚のような……という表現がぴったりだった。 手を伸ばし……指先が微かに触れた。 瞬間、パチッと電気が発生し一瞬腰が引けた。 だが、意を決してその手を握った。 最初はそっと、徐々にチカラを込めていく。 ____ゾクリ、 6月下旬。 梅雨明け宣言にはまだ遠いこの時期は、雨がなくとも湿度が高い。 少し歩いただけで、いや、ジッとしていたって汗をかく。 なのに、僕の身体は鳥肌が立つほど冷たさを感じていた。 そうか……そうだったのか、 僕らは向かい合い、握手をしたままお互いを見た。 失礼を承知でまじまじと顔を視る。 そして切り出した。 「…………この冷たさ、生者ではありえませんよね、」 確信を持ってそう聞くと、 「そうだろうね」 若者は眉を下げて恥ずかしそうに笑った。 良すぎるこの目は、生者も死者も同じに映す。 だけどこの手は氷よりも冷たい。 こんなの放電して確かめるまでもない。 『岡村さん、』 その人は僕の名を呼んだ。 優しい顔で、柔らかく笑って。 『生きていた頃……私は霊媒師で、たくさんの霊達に触れてきました。 それが今……昔とさかさまだ。今は私が霊で、もう一人の”希少の子”に触れられているのだもの。不思議な感覚です。 …………はじめまして。私は平ちゃんの友人で、名前は瀬山彰司と言います、享年70才です、』 …… ………… やっぱり、そうだったのか。
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