第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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途中からではあるけれど、薄っすらと予感はしてたんだ。 ”希少の子”を知っていて、”自然の雨”が久しぶりで、”雨”も”太陽”も”風”も、”目で見て”、”身体で感じた”のは……”11年前が最後”、だなんて、生者ではありえないもの。 この人が……瀬山彰司さんなんだ。 僕より先に、”希少の子”として生まれた人。 強い霊力(ちから)を持ち、その霊力(ちから)を自在に操り、そして霊力(ちから)に苦しめられた人。 「……あの、初めまして。岡村英海と申します。僕も……その、瀬山さんのお話は先代から聞いています。瀬山さんは、伝説級の霊媒師だったって、」 そう、先代が言っていた。 いまだ瀬山さんを超える霊媒師はいない。 霊力(ちから)の量も、技術も武術も交渉術も、だ。 僕がそう言うと、瀬山さんは(らん)さんのように頬を染め、大きく首を横に振った。 『平ちゃんは大袈裟だ。そんな大層なものではないよ。私は生まれてから死ぬまで、ずっと、ただの一霊媒師(いちれいばいし)だもの。立場は今の岡村さんとおんなじ』 いやいや、同じじゃないでしょ。 人生の分岐がいくつか違っていたら。 本来の瀬山さんは、日本で一番チカラを持っている霊媒師軍団、瀬山一族の(おさ)になるはずだったじゃないですか。 と……喉まで出かかったのをどうにか飲み込んだ。 だって……それを言えば、どうしたって悲恋の心中話に繋がってしまう。 生涯一人と決めた、愛する女性を失った悲しみは計り知れない。 今は幸せだと聞いているけど、それでも、僕なんかがそこに触れていいはずがない。 「や、その、僕と瀬山さんではレベルが違うから……はは、おんなじではないですよ。あの……僕、先代に言われてたんです。霊力、体力、その両方を鍛えようねって。それでいつか瀬山さんに会わせてあげるから、いろいろ教えてもらおうって。……僕、瀬山さんにお会い出来て嬉しいです。たくさんお話聞かせていただけたらなって思います。 ……瀬山さんはいつ現世にいらしたんですか? 先代が口寄せしたんですよね? ……あ、そういえば先代は? 一緒じゃなかったんですか?」 死者である瀬山さんは一人で現れた。 黄泉の国から現世には、きっと先代が口寄せしたはずなのに。 その先代はどこにいるんだろう? 大福も一緒にいるんだろうな。 『うん、現世には昨日の夜、平ちゃんが口寄せしてくれた。大ちゃんと一緒にね。現世(こっち)に来たのは頼まれたの。岡村さんに、私の知っている事を教えてあげてほしいって。修業は、私じゃなくとも平ちゃんがいれば十分なんだけど……キミは私と同じ”希少の子”。私にしか伝えられない事もあるだろうと思ってね。それに……平ちゃんの会社を視てみたかった。島根でずっと一緒だった、あのきかん坊(・・・・)が大人になって、立派な社長さんになったんだもの』 ふふふ、 瀬山さんは何かを思い出したのか、おかしそうに笑った。 てか、あれ? 今、面白そうなコト言ってたよねぇ。 「んと……”きかん坊”って、先代のコトですか?」 『うん、そうだよ。平ちゃんのコト。あの子は、もう、なんて言うか……ふふふふふ、』 やだ、ちょっと。 視た目は20才(ハタチ)、だけど享年70才の瀬山さんは再び、意味ありげに笑い出したのだ。
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