第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『あの時は本当に驚いたんだ。私も、言われた霊媒師も、それを見ていたまわりに人達もね』 瀬山さんは眉を下げるものの、おかしそうに笑った。 僕はといえば、普段の先代からは想像もつかないキャラっぷりに、頭の中は大混乱だった。 ____岡村君、頑張ったねぇ、えらかったねぇ。 ____このスィートポテト、んまぁい♪ ____ウチの子達は、みんな私の子供だよ。 穏やかで優しくて、”カワイイ”が仕事ですか? と聞きたくなるようなプリティお爺ちゃんなのに。 「僕の知っている先代じゃない……あ、でもな、前に言ってました。”若い頃の私は今と全然違う、昔はもっと尖っていた”って。どう尖っていたのか聞いたけど、それは頑なに教えてくれませんでした。まさかこんなに尖がっていたとは……てか尖りすぎ。こんな強気発言、後々の人間関係を考えたら普通言えないよ」 ”瀬山”で働く霊媒師って、みんなそろって屋敷に住んでの集団生活でしょう? 寝起きも一緒、修行も一緒、現場も一緒。 常に行動を共にする同僚達とはうまくやっていきたいじゃない。 なのにバサーッと斬り込み、ドシャーッと斬り捨て。 ____おまえ、もう俺に話しかけるな、 ____時間を無駄にしたくない、 僕なら口が裂けても言えない。 だってさ、言った瞬間、回りが敵になるじゃない。 その後、絶対やりにくくなるじゃない。 「それ言ったのって、当時何才だったんですか?」 『年? あの頃、私が20才(はたち)だったから……平ちゃんは18才だ。私より二つ年下だからね』 「18か……若さで血の気が多かったのかな。いや、だがしかし、僕にも18の時代があったけど、そんな強気発言出来なかったよ。あの頃すでに今の僕が完成してたし。てかそんな激しく斬り込んじゃって、その後大変じゃなかったんですか?」 『んー、見ている限り、そうでもなかったよ。あの子は不思議な子でね。強気の発言も、キツイ物言いも、なんだかんだ最終的に「持丸なら仕方ないか」と、まわりが許してしまうんだ』 「へぇ、得なキャラだなぁ。ああでも、たまにいますよね。言いたい事ガンガン言って、好きに振舞ってもナゼか嫌われない人って。ねぇ瀬山さん、先代のトンガリエピソード、もっと聞かせてください! 今と若い頃の別人すぎるキャラがオモシロ……や、その、いろんな先代が知りたいなと思いまして、」 先代、聞いても教えてくれないんだもん。 しょっぱなから、こんな話を聞いたら食いついちゃうよ。 『トンガリエピソードか……ん、たくさんあるよ。なにから話そう。そうだな、平ちゃんが私と共同部屋にしてくれと、(おさ)に直接交渉に行った時、「”瀬山”の厄介者を俺が引き受けてやるよ」と言いにいってね、』 おぉ! その話は少し聞いてて、下地があるぞ! 僕はワクワクしながら身を乗り出した……その時だった。 突然、天から声が降ってきたんだ。 『ストップーーーー!!』 声の感じは若そうで、大きくて張りがある。 ん? これ、誰の声? 聞いた事がない声色だ。 謎の声に僕と瀬山さんは同時に顔を上げた。 すると見上げた視線の先、(つた)の絡まる屋上に、見た事のない若者が立っていたのだが……えっと、誰? 今日は朝から何個目だろう?  と思う程、疑問符を飛ばしまくる僕の目の前。 伝説の霊媒師は、屋上の若者を視ながらこう呟いた。 『平ちゃん、』 …… …………平ちゃん? ……平ちゃん、……へ、平ちゃん!? え、えーーーーーーーーーー!?
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