第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ ____さぁ、岡村くん、大福ちゃん、それからショウちゃん!  ____出かけようか! 先代の気合に、身の引き締まる思いがした。 で、みんな揃ってW県に向かって走り出……せたら良かったんだけど、そんなカッコよくはいかなかった。 『じゃ、岡村くん。私とショウちゃんは一足先に行ってるね。向こうで待ってるっ! あ、安心してちょうだい、悪霊には手を付けないでとっておくからっ! あとでねー!』 そう言った先代は、瀬山さんと一緒に煙のように消えてしまった。 あーっ!  それって幽霊の皆さんがよくお使いになる、瞬間移動的なアレでしょ! 生者には絶対に出来ないヤツ! んもー! 僕、みんなで一緒に行きたかったのにー! てか場所……! 先代からは”W県の山中(さんちゅう)”としか聞いていない。 W県内に一体いくつの山があると思ってるの。 こんな手掛かりじゃあ、場所がどこだかわからないよ。 あぁ……先代ってあわてん坊だなぁ。 いくら瀬山さんと会えて嬉しいからって、肝心な事を言い忘れてるんだから。 どうしよ……ん……社長ならなにか知ってるかな? いろんな意味で、高鳴る胸を押さえつつ、僕は事務室へと歩き出したのだ。 時刻は9時37分。 アウチ……こんなに時間が経っていたとは。 僕は今日、いつも通りに出勤したものの、瀬山さんにお会いし、若者と化した先代と会い、なんのかんのと盛り上がったがゆえ……まだ事務所に行っていないのだ。 これって遅刻になるのだろうか……? 一応会社の敷地までは来ていたし、遊んでいたのではない。 で、でも、そんなの社長は知らないだろうし。 ちゃんと訳を話すしかないな。 それと、先代が言っていた”W県の山中(さんちゅう)”に心当たりがないかを聞かなくちゃ。 「ぉはょぅござぃまぁす……」 遅刻じゃないけど、遅刻のような気分になって、事務室に入る声がか細くなってしまう。 基本僕は気が小さいのだ。 怒られたらどうしようなんて心配をしていたのだが、どうやら取り越し苦労だったみたいで…… 「おぅ、おはよう。どうしたエイミー。なに小さくなってんだ?」 天井に取り付けた鉄パイプにぶら下がり、丸太の腕で懸垂をする社長は、遅れた僕を責める様子はまるでない。 てか……この人なにしてるの?  懸垂……筋トレ?  もうコレ仕事の片手間じゃないよね?  本気だよね?  そんな社長のすぐ近く。 デスクに座るユリちゃんは、「カッコイイ……」と呟きながら頬を染め、手に持つスマホを社長に向けている。 んと……何してるんだ? って、ああ、わかった。 ありゃ旦那の懸垂動画を撮っているんだ。 こんなん毎日見てるだろうに。 ちょ、自由、この二人自由すぎるよ。 僕の遅刻(チガウけど)なんて、気にもとめてないみたいで……良かったっ!
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