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「エイミーが時間通りに来てたのは知ってたよ。ジジィが言いに来たからな」
懸垂を終えた社長は、ハーブティーを飲みながらそう言った。
「先代、話しておいてくれたんだ。さすがだなぁ、ありがたいや。あっ! てことは、社長も視たんですね? 先代の18才バージョン!」
「ああ、視た。なんかよ、ナマイキそうな顔してたよな」
あはは、ナマイキそうって。
まぁ、目つきの鋭いクール系だからねぇ。
いつもの先代とは別人だもの。
驚いちゃうよね。
「エイミー、おまえさ。ジジィと瀬山さんに鍛えてもらうんだろ? やったな、すげぇ豪華コンビじゃん! 俺も一緒に行きてぇんだけど、現場じゃねぇのに会社を空ける訳にもいかねぇ。帰ってきたら話を聞かせてくれ。で、場所はW県だろ? 距離があるから飛行機で行けよ。チケットはユリがもう手配済だから」
「わぁ助かります! ユリちゃんもありがと! それでですね、その修行の場所なんですけど、社長は何か聞いてます? 先代から”W県の山中”とは聞いたんですけど、詳しい住所を言わないまま先に行っちゃったんです。これじゃあ、W県までは行けても、その後、途方に暮れちゃうよ」
先代には困っちゃいますよねぇ、なんて笑った僕に、社長はしばし考え、そしてニヤリと笑ったんだ。
「悪いな、エイミー。場所に関しては、俺もユリも何も聞いてねぇんだ。でもよ、たぶんジジィはワザと何も言わなかったんだと思うぜ?」
「……え、なんで? それじゃあ修行が出来ないよ、」
僕は訳が分からなくて、W県に行く前から途方に暮れた。
ワザと言わなかったって、どうして?
「住所を聞いてないから行けない? ははっ! ナニ言ってんだ、俺達は霊媒師だぜ? んなもん、聞いてなければ霊視すりゃあいいんだよ。年寄り二人が今どこにいるのか、エイミーが探すんだ」
「僕が……探す? で、でも、恥ずかしながら、僕はまだ霊視が出来ないんです。……こんな事なら、もっと早く霊視の勉強しとけば良かったな。失敗した」
自分が恥ずかしい。
先代はあわてん坊なんかじゃなかった。
少ない情報の中、霊視で場所を探させようと、これも修行の一つだったんだ。
「ま、そんなに落ち込むな。なぁ、エイミー。前によ、ミューズの印を動画で撮ってなかったか? でもって、撮った印はすべて覚えたとも言ってたよな? その中に霊視の印も入ってただろ」
「は……はいっ! 水渦さんに撮らせてもらった動画の中に、霊視の印も入ってました! 僕はそれを完璧に覚えてる……そうか、まだ使った事はないけど、印を組めばもしかして、少しは霊視が出来るかもしれない、」
そうだ、僕はあの動画を見て色んな印を覚えた。
そのおかげで、霊矢は撃てるようになったのだ。
矢が撃てて霊視が出来ないはずがない(と、思いたい)。
「どうだ? なんとかなりそうか? ま、なんとかするしかねぇけどよ。ユリがよく言うんだ。『出来ねぇじゃねぇ、やるんだよ』ってな。だからエイミーも”やるんだ”」
ユ、ユリちゃん、けっこう強気なコトを言うんだな、と目線を投げれば「ち、違います! 私じゃなくて、爺ちゃんが言ったの!」と顔を真っ赤にさせていた。
「……社長、ありがとうございます。そうですよね。瀬山さん、わざわざ僕の為に来てくれたんだ。先代も、忙しいのに時間を取ってくれる。……僕、自分で探します。必ず先代達の元に辿り着いてみせます。それでガッツリ鍛えてもらってきます」
「ああ、頑張れよ」
ニカッと笑う社長に見送られ、とりあえずW県まで行こうと、僕と大福は駅に向かって走り出していた。
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