第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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弥生さんと長い時間一緒にいられたツーマンセル、今思えば大変な現場だった。 ジャッキーさんとマジョリカさんと弥生さん、この三人の想いが複雑に絡みあい、尚且つ、弥生さんの髪と心臓を喰らおうとする悪霊のヒョウさんがいて、そのヒョウさんの仲間の悪霊達が百の単位でウジャウジャいたんだ。 マジョリカさんを口寄せし、のちに悪霊達と戦う事になった寂れた公園。 あそこにはジャッキーさんの光る石によって集められた悪霊達が、ギチギチにひしめき合い、その中を弥生さんと僕の二人だけで突っ込んでいった。 あの時、霊矢が撃てなかったら悪霊達と戦えなかった。 弥生さんを助けるどころかお荷物になっていただろう。 いや本当に……撃てて良かったと思う。 ヒョウさんも他の悪霊達も怖かったけど、最後まで戦えたのは弥生さんのおかげなんだ。 弥生さんを置いて逃げるなんて絶対にしたくなかったし、弥生さんを守りたいとも思った。 その思いが、基本気が小さく超平和主義の僕を変えた。 あ……っと、それだけじゃないな。 あの現場で、コトあるごとに弥生さんが僕をベタ褒めれくれたのも影響大だ。 ____エイミーちゃんカッコイイ! 当然容姿のコトではない、霊矢をいっぱい撃ったから。 ____エイミーちゃん……マジかよ、すげぇ……! 僕が発動させた、悪霊達を縛る鎖を視るの初めてで驚いたっぽい。 ____エイミーちゃんはウチの会社で一番霊力(ちから)があるんだぞ! まるで自分のコトみたいにヒョウさんに自慢してたっけ。 もうさ、あれだけ褒められたらモチベも爆上がりですよ。 ただでさえ、僕は褒められて伸びるタイプなんだもの。 絶対逃げない! 絶対頑張る! って、そりゃなるよね。 「先代と弥生さんは褒め上手だからなぁ。弥生さんがまた褒めてくれたら、霊視出来るようになったりして……なんてね。そんな単純なモノではないか、」 ははは、なんて一人で笑ってみるも、その声は思った以上に疲れが含まれていた。 なんの準備もなくW県までやってきて、今夜泊る宿もないまま、寂れた公園で霊視に挑む。 だがその霊視はちっともうまくいかない。 頼みのキーマンさんの電話は繋がらず、おなかもすいて、途方に暮れて。 なんとしても霊視を成功させなくちゃと気を張っていたのが、自分の疲れた声に気付いてしまって、こんな些細な事がきっかけでシュルシュルと空気が抜けてしまった。 「はぁ……早くなんとかしなくちゃいけないのに」 僕はベンチから立ち上がる事が出来ないまま、鳴らないスマホを意味もなく眺めていた。 手持ち無沙汰でそのまま画面をタップする。 テキトウなアプリを起動させたり、それをすぐに終了させたり。 手遊びのつもりで、画面を何度も切り替えて、そんなことを繰り返していたのだが、無意識がそれを選んでしまった。 【弥生さん】 そう表示されたアドレス欄をぼーっと見て、もう一回思ったんだ、元気かなぁって。 そして同時。 疲労の海に溺れる僕は、何も考える事なく通話ボタンをタップしていた。
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