第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

34/267
前へ
/2550ページ
次へ
◆ ピピピ……ピピピ……ピピピ…… うん、朝か……? まだ眠い……あと五分……五分したら起きる…… ん……やっぱりダメだ……起きなくちゃ、二度寝したらキケンだ、起きるぞ……起き……すぅぅぅぅ …… …………り ………………ざーり、 ……………………ざーりざーりざーり うぅ……ほっぺがヒリヒリする……あと胸……重……圧迫……幸せ…… 「……おはよ、」 朝の光が差し込む部屋で、僕の胸にドドーンと座る大福は、首を伸ばしてこちらを視てる。 時折、ざらざらの舌で僕を舐めるものだから、ほっぺとか鼻とかおでことか、あらゆるトコロがヒリヒリするのだ。 ああ、なんたる幸せ。 毎日、だいたいこんな感じで起こされる。 ラブリーすぎる推定5kgの(いや、6kgか?)豊満ボディを抱き上げながら、僕は布団の上で半身を起こした。 「知らない部屋じゃ眠れないかと思ったのに……すぐに寝ちゃったな」 そう、ここは僕の部屋ではないし、当然昨日の公園でもなければホテルでもない。 部屋の中を見渡せば、そこはとても乱雑だった。 床に積まれた衣服は、畳んであるのか丸めてあるのか判断がつかないし、朝日の眩しい大きな窓は、カーテンがなく四角い枠が剥き出しだ。 所々に染みがつく、元はきっと白い壁には、何枚ものポスターが画鋲で貼られているのだが……そのうちの一枚。 黒の背景に半裸の男が一人。 その人は、鋼の筋肉を惜しむ事なく見せつけていた。 肩が、胸が、腕が、はち切れんばかりに盛り上がり、腹筋は見ているだけで板チョコが食べたくなる割れっぷり。 斜に構えたアングルで、左手には赤いリンゴが乗っている。 鋭い目つき、ツルツルに剃り上げられたスキンヘッド、印象は巨大な岩山。 そう、現役を引退してもいまだ人気の根強い元レスラー、大和さんだ。 ポスターには荒々しい文字で、 ____俺は今、限界の向こう側にいる ____おまえも早くここまで来い と、書かれていた。 「大和さん、カッコいいなぁ」 『うななーん』 僕は屈強すぎる大和さんを眺めながら大きく伸びをした。 昨日のインW県から一夜が明けて、時刻は朝の5時半だ。 ジャッキーさんから、【霊視入門編はまずコレだ!】な、初心者向けの方法を聞いたあと、その勢いで67分の1を探し出すべくどれかの山に向かおうとしたのだが……すっかり暗くなっていた事と、社長からの電話でそれを中止にしたのだ。 ____よう、エイミー! どうだ? ジジィには会えたか? そんなお気楽な質問に「ははは、まだです」と答えると、 ____じゃあもう明日からでいいだろ。で、どこか宿は取れたか? 取れてねぇなら、親父の友達がW県にいるんだ。親父が連絡してやるって言ってるけど、そこで世話になるか? 是非ぃっ!
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加