第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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おいしい朝ゴハンをいただいた一時間後。 支度を終えた僕はジムの前にいた。 「何から何までお世話になりました」 感謝してもしきれない、下手すりゃ人生初の野宿になるかもだった僕は、ガバッと深く頭を下げた。 「いいのよ! ウチには若い子がいっぱいいるんだもの。岡村君の一人や二人増えた所でいつもと変わらない! 私達、誠君のお友達に会えて嬉しかったわ。ふふふ、ジャージもよく似合ってる、サイズもちょうど良いわね。そうそう、忘れちゃいけないのがコレ! お弁当作ったからお昼にでも食べなさい。あとね、コッチの袋はパンとかお茶が入ってるから、何日かはこれで持つと思うわ」 奥様はそう言って、大きな袋を二つ僕に渡してくれたのだ。 「えぇ! そんな! 申し訳ない! 泊めてもらってゴハンもお風呂もいただいて、このジャージだっていただいてしまったんです! なのにお弁当に食料まで……お願いです! せめてお礼を受け取ってください!」 そうなのだ。 昨日の夜、宿泊代にと少ないながらお金を包ませていただいたというのに、笑うばかりで受け取ってくれなかったのだ。 さらに、「なんの修行か知らないが、山に行くならスーツはやめとけ。若いもんのお古があるから、それやるよ」と、ジャージ上下にスニーカーまでいただいてしまったの。 こんなにしてもらって、お礼もせずに帰れないよ! だがしかし、僕の懇願に奥様はケラケラと笑い、 「だからぁ、そんなもんいらないわよ。言ったでしょう? ウチは大所帯なの、若いのが増えた所で変わらないわ。お弁当は残り物、パンと飲み物は特売品、ジャージとスニーカーは捨てる予定のお古だもの。そうね、そんなに気になるなら、いつか他の誰かが困っていたら、今度は岡村君が助けてあげなさいよ。それでチャラだわ。あっ、そんなコトよりウチの人が来たわよ! ほら、早く乗って!」 優しい奥様に背中を叩かれ、ジムの前に車をつけるG・Aネクロマンサーさんに「本当にすみません!」と頭を下げた。 「いいって、いいって! 大和から頼まれてるし、岡村君は誠の友達だろ? アイツ結婚するって聞いてさぁ、カミさんどんな子?  大和と誠に聞いたって、腑抜けた声で『可愛いんだよぉ』しか言いやしねぇ! だから岡村君が教えてよ、それでチャラだ!」 それでチャラ! あはは、夫婦ってずっと一緒にいると似てくるのかな? 二人とも同じ事言ってる。
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