第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ G・Aネクロマンサーさんの車を見送り、僕は大福とT山のふもとに立っていた。 初めて見るT山は、登山やハイキングで賑わうような山ではない。 公道がrの形に分かれ、逸れた登り坂はそのまま山道になっていた。 それは車も通れる舗装道路で、ただ幅は狭く、両端は所々アスファルトが割れている。 標高はあまり高くなさそうで、車を使って峠を越えれば、迂回せずとも隣町に行けそうだった。 時刻は7時半。 平日の通勤時間帯だというのに、あたりは人もまばらで閑散としている。 ネットで見た地図によれば、ここから駅はだいぶ遠いし、住宅街でないのが僕にとって幸いし、人目を気にせず放電ができそうだ。 まぁね、放電した所で霊力者でなければ視えないけれど、視えないからこそ、ジャージ上下で背中にリュック、大きな袋を両手に持った僕は、下手すりゃ怪しく見えてしまうだろう。 人の少ない今のうちに、ガッツリ霊視(入門編)をしておきたい。 とりあえず。 僕は山へと続く電柱に目をやった。 普段、電柱なんてじっくり見たコトがない。 外に出ればそこいらじゅうにあるんだもん。 あまりに見慣れ、そこにあるのが当然で、特別に注意を払った事がないんだ。 今回改めてじっくりと見ると、高い位置で伸びるケーブルは、一本ではなく複数本あった。 ____電柱に放電し、そこからケーブルに霊力(ちから)を流すんだ、 んー、ジャッキーさんはそう言ってたけど……ケーブル何本もあるよ。 これ、放った電気はどのケーブルに入り込むんだろう? あ、それとも一本とは限らないのかな? ケーブルの数だけ霊力(ちから)は分散され、すべてのケーブルに流れるのかもしれない。 ジャッキーさんはそこまで言ってなかった。 はぁ、初めての事で勝手がまるで分らないや。 でもまぁ……だからこそやってみるしかないか。 僕はジャッキーさんから教えてもらった事を思い出していた。 瀬山さんの風を浴び、僕の身体にはたっぷりの霊力(ちから)が付着してるはず。 まずはこれを集めて一塊にする必要がある。 そうでないと、霊力(ちから)は時間が経てば経つほど、その分消失してしまうからだ。 ジャッキーさん曰く、付着した霊力(ちから)が完全になくなるまでおそらく数日。 先代達を視付けるのに何日かかるかわからない状況で、モタモタしてたらせっかくの霊力が完全に消失してしまう。 そうなれば、霊視スキルのない僕は行き詰ってしまうんだ。 そうならない為には、瀬山さんの霊力(ちから)をすべて集めて、数日程度で消失しないタフな塊にしなくちゃダメなの。 方法はジャッキーさんから聞いてある。 作業自体は難しくない。 ただ、失敗は絶対に許されない。 しくじれば、瀬山さんの霊力は一瞬で飛散して……消失してしまうからだ。
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