第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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再構築は最初はゆっくり、だが途中から急にピッチが上がった。 ぶわっ! 僕の身体の表面から、細かな粒子がまるで珊瑚の産卵のように浮き上がる。 色は優しいクリーム色で、いつかネットで見た真珠の色によく似ていた。 これが瀬山さんが持つ霊力(ちから)の固定カラーなのだろうな。 体に付着していた時は、細かすぎたせいなのか目に視えなかった。 だけど今、僕の霊力(ちから)つなぎ(・・・)にまとまり始めると、色も、形も確認する事が出来る。 目の前、目の横、目の下と、宙にはいくつかの塊がぷかぷかと浮かんでいた。 それらが互いに引き合い、”ぽん”とぶつかるたび、二つが一つに合わさって、繰り返すほど大きさを増していく。 塊の最後の二つが一緒になって、霊力(ちから)はとうとう一つにまとまった。 それは小さなミカンくらいの大きさで、瀬山さんのクリーム色と僕の雪色とでランダムなシマシマ、薄いマーブル模様を描きだしている。 ツルツルと滑らかで光沢があり、綺麗だなぁなんてしばし見惚れていた。 いよいよだ……緊張するな。 僕は湾曲させた両手のひらに汗が滲むのを感じていた。 この湾曲を崩せば、癒しの霊力(ちから)も連動して解除になる。 そうなれば、塊は瀬山さんの所に戻ろうとするのだ。 速度を持って飛んでいく塊を、僕は素早く優しく手で捕まえなくてはならない。 プ……プレッシャー……! ひいき目に見ても僕はヒーロータイプの人間ではない。 土壇場のピンチで通常以上のチカラを発揮出来るのがヒーロー。 土壇場のピンチで通常ならしない凡ミスをするのがこの僕だ。 まずね、【初めてだけど一発勝負】このタイトルだけで胃が痛い。 せめて3回チャンスがほしい(パスワードだって3回まではOKでしょ?)。 目の前に浮かぶ霊力(ちから)の塊。 ああ、どっちの方向に飛んでいくのかが分かればいいのに。 正直、自信がないよ。 ふふふ……だがしかし、こんな時に頼れるのが大福先生だ。 2分の1の確率で塊を掴み損ねたら(”万が一”ではないよ)、その時は僕の代わりに捕まえてとお願いしてある。 前に行ったN県の現場では、宙を飛んで逃げようとしたチビクマを難なく捕まえてくれたんだ。 猫の身体能力はあのジャッキー・〇ェンさんをも上回る。 しかも大福は三尾の猫又、いわば猫の中の猫なのだ。 妖力(チカラ)も、能力も、可愛さも、フワフワも、宇宙の頂点に君臨する”にゃー王様”に(僕視点だけど)不可能はない。 「よし、じゃあ癒しの解除をするよ。大福、僕がしくじったらよろしくね!」 浮かぶ塊から目線は逸らさず、先生に声をかけると僕の足元から『うなっ!』と力強い返事が返ってきた。 くぅ、本当にありがたい。 僕は成功の確率を少しでも高めようと、湾曲した両手ごと上げて、最初から塊を手の中に収めた この後の成功イメージはこうだ。 手を上下にずらし癒しの霊力(ちから)を解除する→塊、どこかに飛ぼうとする→バッと両手を素早く合わせる→塊確保ー!→大福、僕をベタ褒めー!→ハッピーエンド♪ そう、最後の二つは余分かもしれないが、こういうポジティブなイメージを合わせた方がいいと思うのよね。
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