第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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成功イメージもバッチリだ。 大丈夫、いけるはず。 もしダメでも一人じゃない、僕には頼れる猫又、大福がいる。 「よし、いくぞ、いくぞ……そいやぁっ!」 僕なりの気合いをいれて、両手を上下にグイッとずらした。 すると包んでくれてた雪色が薄くなり霧となって消えていく。 解除が始まった、ここからは時間勝負。 僕はずらした両手をすぐに戻した。 塊は手の中にいてくれて、予想に反して大人しい。 だからと言って油断はしないぞ。 気を抜いた途端、ビュンッと飛んで行ってしまうかもしれ、 グィッ!! ビュンッ!! え、えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!! 気ぃ抜いてないのにぃぃぃぃぃぃ!! 塊は確かに手の中にあった、力を込めて、両手で、確保してたはずだった。 だけど、塊は僕以上の力でもって、両手をこじ開け宙に飛んだんだ。 「大福ぅぅぅぅぅっ!!」 頼れる猫又は、呼んだ時にはもう地を蹴っていた。 視上げた空には、丸いオシリとそこから生える三本の尻尾が優雅に揺れて、塊を追った大福はグングン高度を上げていた。 それに伴い、猫の霊体(からだ)が小さくなっていく。 僕は祈る気持ちで視ていた。 塊を持って帰ってきてほしい。 でもね、無理はしなくていい。 もしもなんらか危険があれば、塊なんか放っておいて、すぐに戻ってきてほしい。 空に大福の姿も塊も視えなくなり、しばらくたったあと。 そろそろ心配になってきた頃だった。 高い位置からふわりふわりと僕に向かって降りてくる大福を視た。 「大福っ!」 たまらず叫んで名前を呼ぶと『うな』の一言も返さない猫又が、なにやら得意げな顔をしている……って、返事、返せないはずだ。 だってちっちゃなお口には、んもーマーベラス!! 霊力(ちから)の塊をしっかり咥えているんだもの。 さ、さすがだぁ! さすがは大福先生だぁ! 元気に嬉しそうに塊を持ち帰る猫又を、僕は両手を広げて迎え入れた。 「大福ぅ、ありがとう、本当にありがとう。また助けてもらちゃったねぇ。あとでおやつあげるからね、それから家に帰ったらささみも茹でてあげる、なんでも好きな物食べさせてあげるからねぇ」 もふもふボディをギュッと抱きしめ、頭頂部に頬ずりをすると、ゴロゴロゴロゴロ、ゴキゲンで喉を鳴らす大福姫。 ああ、幸せだなぁ……湧き上がる愛しさ、塊を確保した安堵感。 そう、この時僕は、そして大福も完全に気を抜いていた。 抱っこの猫又が僕に塊を渡そうと、ちっちゃなお口をパカッと開けた。 本当なら、僕の手のひらにペッと落ちるはずだった。 だけどその瞬間、塊は再び宙を飛んだのだ。
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