第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 再び僕は絶叫し、 同時、大福は僕のおでこを踏み台に大きく飛んだ。 「はぅ、肉球ぅ……!」 足の裏の柔らかな感触に一瞬うっとりしたものの、すぐに引き締め上を視た。 そこにはさっき視た光景の2ターン目、丸いオシリとそこから生える三本の尻尾。 ただ違うのは、1ターン目の尻尾は優雅に揺れていたけれど、今はブワッと膨れてボワボワになっている(猫は興奮すると尻尾の毛が逆立つのだ)。 大福よりもだいぶ先を飛ぶ塊は、本体へ戻ろうと速度を上げる。 ダメだ……もう間に合わない。 いくら大福の身体能力が高くても、あれだけ距離があれば追いつく事は難しい。 いいんだよ、無理しないで、下僕が気合でなんとかするから……と、下から叫んで呼び戻そうとした時だった。 ん? ん? んんん? 急に遠近感がおかしくなった。 地上からだいぶ離れた大福は、遠近法で小さく視えるはずだった。 てか、さっきまで小さかったし。 なのに、えぇ? なんで? 見間違い? や、だって、ん、えぇぇぇぇ!! 『うにゃっっ!!』 空から降るのは大福のキューティーボイス、なんだけどデカイ。 社長か弥生さんかってくらい声がデカイ。 てかデカイのは声だけじゃない。 もうこれは見間違いじゃない。 空にはフワフワの白い毛が一面に広がっている。 たゆんたゆんのおなかが動くたびに波打っている。 僕の愛しい大福は、いつぞやのチビクマのごとく巨大化した。 「第二形態!? こんな事今までなかったのに!」 大福は巨大化する事で、塊との距離を一気に縮めた。 そして『もう逃がさにゃい!』と言わんばかりに、塊を咥えるのではなく、パクッと口の中に入れてしまったのだ。 塊を捕まえた猫又は、シュルシュルと小さく戻りながら僕の元へと降りてきた。 とは言ってもいつもよりは大きくて、昔動物園で見たトラかライオンくらいのスケールだ。 ドスドスドス。 いつもと違う重量感で僕の目の前に座った大福は、口の中で暴れてるであろう塊を逃すまいとお口を閉じている。 そうか……瀬山さんの塊は何度でも戻ろうとするんだな。 一度捕まえたからって、そのあと大人しくなるとは限らないのだ。 油断した……でも大福が捕まえてくれたよ。 しかも、こんなに大きくなって。 僕は目の前の猫又をまじまじと視た。 可愛さはそのまんま、なのにデカイ。 もうさ、お得にもほどがある。 こんなにデカいって事は……僕は我慢も限界で、体当たりするように抱き着いた。 ああ……やっぱりだ……ふわふわもこもこ、抱っこのしがいがハンパない。 これから寝る時だけでもこの大きさになってほしい。 あ、でもな霊体(からだ)はやっぱり冷たいから、僕は風邪をひいてしまうかもしれないな。 でも、この最高の感触を一度知ってしまったら……ん。 風邪くらいひいてもいっかなと思っちゃうよね。
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