第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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30分が経過した。 今の所……なんの反応もない。 釣り糸が引くような感触はちろん、何かに触れるようなとか、どこかで詰まってるみたいとか、そういったものも何にもない。 むぅ……反応なさ過ぎ、不安になるよ。 僕の霊力(ちから)(桜色)、ちゃんとケーブルに入り込んでるよねぇ? 電柱までは視えている。 けどケーブルに入ってしまえばわからない。 だから、たぶん、きっと、入ってるんじゃないかな?……くらいの自信しかない。 しかも。 反応がないものだから、時間がやたらと長く感じる。 放電して1時間は経っただろうと思っていたのに、実際は30分しか経ってないのを知って、僕は愕然としたのだ。 もしかして……この山じゃないのかな? だから何にも起こらないのかな? まぁ、候補の山の67ヶ所に対し、まだ1ヶ所目だもの。 ハズレの可能性が高いけど、確実にココにいないと判断するのにどのくらい待てばいいんだろ? 1時間? 2時間? それとも……24時間? あーもー、わかんないコトばっかりだ。 はぁぁ……一人ってめちゃくちゃ不安だ。 僕はまだ新人だから、現場は必ず誰かと一緒でさ。 分からない事があったって、先輩方に相談すればなんでもすぐに答えてくれた。 僕は楽をさせてもらってたんだな。 今頃になってツーマンセル、スリーマンセルのありがたみが身に染みるよ。 ……ハッ!  もしやこれって、修行の一環なのでは? 本物の現場に立った時、一人で判断に迷ったら、聞ける人が誰もいなかったら。 プレッシャーはこんなもんじゃすまないだろう。 だから今のうちに、無い知恵絞って工夫して、ピンチをソロで乗り越えられるように鍛えてくれてるんじゃないか? 可能性はある。 だとすれば頑張らねばなるまい。 僕は温かい瀬山さんの塊と、それに添える霊力(ちから)の色を確かめた。 大丈夫、薄くてキレイな桜色だ。 きっと霊力(ちから)は探してくれてる(と信じるコトにした)。 よし、とりあえず、あと30分頑張ってみよう。 そうすれば、放電を始めてちょうど1時間だ。 キリが良いし、それまでに何もなければ山を移動しよう。 いくら霊視(入門編)で探すとはいえ、候補の山はあと66ヶ所もあるんだ。 1ヶ所にかける時間を切り詰めないと、とてもじゃないけど回れな____ ガクンッ、 それは突然だった。 電柱の横側で、桜の光を発し続ける僕の身体が不意に揺れた。 「大福……視た? 今……引っ張られたよね、」 揺れは一瞬、チカラはそんなに強くない。 それでも確かに、ナニかが(・・・・)僕を引っ張ったんだ。 『うな……』 大福は低く短く一言鳴いて、上空のケーブルを視つめていた。
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