第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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膨れたお腹をさすりつつ、空になった紙の容器を小さく畳みまとめると、入れっぱなしのコンビニ袋に入れ、リュックの底にしまい込んだ(ゴミは持って帰るのだ)。 ちなみに行きに着ていた、スーツ上下にワイシャツ、革靴。 これらは奥さまの提案で、宅急便で会社に送ってしまった。 荷物になるし、リュックに詰めてシワになったら着て帰れないしね。 いただいたお茶を飲みつつ、展望スペースから下を見ると、うっそうとした木々が見え、その向こうにはのどかな畑が広がっていた。 そんなに高い山ではないから、畑の中の細い道に車が通ってるのが見える。 ゆっくりのんびり、すれ違う車は互いに譲り合っていた。 しかし良い所だなぁ、自然豊かで人も優しい……なんだかほのぼの幸せな気分になる。 空を見れば、晴天とはいかないが薄い雲がベールのように広がって、時折光が差し込んでいた。 動くならこのくらいがちょうどいいや。 それに雨じゃなくて良かった、なんて思っていると…… キラッ、 空のうんと高い場所で何かが一瞬光った。 色は赤。 なんだろうと目を凝らしたがもう一度見える事はなかった。 今のはなにかな……あっ、アレかな、飛行機かな。 日中飛ぶ飛行機は、夜みたいにライトは見えない。 曇り空だし、偶然のタイミングで少しだけ見えたのかもしれないぞ。 ま、そんな所だろうと、特に気に留めず出発の準備を始めた。 この山に先代達がいるのは確実。 ならばなんとか、日が暮れる前に合流したい。 奥さまが持たせてくれた食料は、少しずついただけば4日くらいは持つだろうけど、逆に言えば4日分しかないのだ。 底をついたら、生者の僕は弱ってしまう。 急がなくてはならない。 とはいえ、焦るの厳禁。 慌てて良いコトなんて一つもないのだ。 ゆっくり、落ち着いて、急ぐ。 これが大事だ。 「よーし、大福ー。出発しようかー」 柵を越えた空中で、小鳥の横をのんびり飛んでいる猫又に声をかけた。 てか、なにこの可愛い猫は。 でもって小鳥に霊感がないようで、本当に良かったと思う。 自分の隣を大きな猫が飛んでいるのがわかったら、きっと腰抜かしちゃうだろうからね。 『にゃにゃーん、』 愛しの猫又は『まってー』と言いつつ、僕の胸に飛び込んできたのだ。
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