第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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おいしいお弁当でお腹を満たし、僕と大福は山道を歩きだす。 並ぶ電柱、5本ごとに放電し、空振りだったらまた進む。 テクテクテクテク。 たくさん歩いて暑くなり、ジャージの上を脱ぎ捨てた……ってウソ。 捨てずに腰に巻きつけた。 中に着ているTシャツは、やはりネクロマンサーさんからいただいたものだけど、そこには凛々しい顔の大和さんがプリントされている。 なんでも”大和グッズ”の新作が出るたびに送ってくれるそうなのだ。 ネクロマンサーさん曰く、 このTシャツは去年モデルで散々着たし、今年の分はもうもらったから。 と僕にさげてくれたのよね。 てか大和さん、レスラー引退して何年よ。 いまだグッズが出るとかスゴイよな。 でもってコレを着てると、強くなった気分になるのは気のせいだろうか? ……って、あはは、絶対気のせいだ。 一人で言って一人で笑った僕は、新たに決めた”起点H”の電柱で、下部に向かって放電をした。 この時……これまでの連続空振りで、緊張感が薄れていたんだと思う。 頂上には近いけど、まだまだ距離はありそうだし、きっとまた空振りだろうと緩んでた……なのに。 グィィッ!! 「うわぁっ!」 身体が強く引っ張られた。 それだけじゃない、湾曲の手のひらはジワジワと痺れ、霊力(ちから)の塊はジンジンと熱を増した。 なんだコレ……明らかに違う。 ふもと(・・・)で感じた反応とえらい違いだ。 自分の意志とは関係なく腕は上がり、引きずられ、そのまま柱の上まで連れていかれそうになる。 「マズイな、」 このままでは吊り上げられて、なんらか霊力(ちから)が途切れたら僕はそこから落下する。 そうなれば大ケガか、最悪死者の仲間入りだ。 いいや、一度ここで霊力(ちから)を止めよう。 大丈夫、ここまできたんだ。 あとはどうにでもなる。 なんなら大声で呼んだっていい、「二人はどこにいますかー」ってね。 湾曲した手のひらは痺れっぱなしだ。 無数の針で一斉に刺されたようなチクチク感に鳥肌を立てながら、僕はギュッと拳を作り、桜の電気を強引に止めた。 心配した大福が僕の手の甲をペロペロと舐める。 ありがとね、僕は大丈夫だよ。
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