第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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腕をさすりながら、僕はあたりを見渡した。 山を登る途中まで、舗装の道の片側は落石防止のコンクリ壁が、反対側は崖だった。 坂も急で歩くのがキツかった。 だけど今は? 続くカーブをひたすら登り、頂上近くのこの場所は、コンクリ壁は変わらないけど、反対側は崖じゃない。 緩やかな下りの大地が広がって、降りて行くのは不可能じゃない。 「…………降りてみるか。それで、」 古びたガードレールを乗り越えて、舗装の道から草の大地に足を踏み入れた。 背伸びでキョロキョロ視てみたが、先代と瀬山さんの姿はない。 だが瀬山さんの塊は、眩いくらいに光を発し、本体(・・)に強く反応している。 絶対にいる。 試しに僕は大声で二人を呼んだ____が、返事はない。 隠れているのか、聞こえないのか……判断がつかない。 仕方がない、伝説の霊媒師さんには失礼だけど、ココまで来てもらおうかな。 僕はスゥっと息を吸い、両手両五指、これを複雑に絡め合い、増幅の印を結んだ。 これでしばらく、僕の霊力(ちから)は通常の3倍だ。 下準備はこれでOK、お次は……両手のひらを向かい合わせて湾曲し、加減無しで(・・・・・)霊力(ちから)を溜めた。 増幅の印の効果は絶大で、瞬き五つで赤い塊が出来上がる。 そう、僕は今、赤い鎖を構築してるのだ。 神奈川の現場ではオタク幽霊24人を、マジョリカさんの現場では悪霊百体を、僕の鎖は一人も逃す事なく縛り上げた。 この鎖に瀬山さんの霊力(ちから)を乗せてやれば、必ず視付ける、必ず絡める、必ずココまで連れてくる。 …… ………… よし、完了。 すべては整った。 僕の手には、構築を終えた赤い鎖が触手のごとく蠢いていて…… スゥゥゥゥ 大きく深く息を吸い込んだ。 腹の底から大声を出すために。 そして、 「瀬山さーーーーーーーーーん!! 大変恐縮では御座いますがぁぁぁぁぁ!! 僕の元までご足労願いますぅぅぅぅぅ!!」 たった一人を捕らえる。 その為だけに、百の単位の赤の鎖は四方八方、宙を飛んだ。
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