第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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数多の鎖が宙を舞う。 うねり、たわみ、蛇のように、矢のように。 たった一人を探し求めて、急上昇と急降下を繰り返し、旋回し、時に止まり……やがて鎖は規則的な円状に、飛行範囲を広げていった。 その様子を鎖の中心で視上げた僕は、 「なんか……巨大な彼岸花みたいだな」 思わず独り言ちた。 赤黒い鎖の色は少し怖い。 だけども、発光しながら広がるさまは美しく、彼岸花を連想させた。 彼岸花は墓地に植えられる事が多いと聞くけど、それゆえだろうか? ”幽霊花”とか”死人花(しびとばな)”とか、そんな風に呼ぶ人もいるんだ。 生きたお花を、”幽霊”とか”死人(しびと)”とか、なんだかネガティブな呼び方だよね。 本当はそんな事ないのに。 僕は昔学生の頃、お花屋さんでアルバイトをしてたから薄っすらと覚えてる。 彼岸花の花言葉の一つには、”再会” というのがあるの。 なんだか今の僕達にぴったりじゃないか? こんなに大きな彼岸花が咲いたんだ。 必ず会える、必ず視付ける、……だから。 「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 気合いを入れて、更に霊力(ちから)を注ぎ込む。 今の僕では、最長200メートルの鎖しか構築出来ない。 それを少しでも伸ばせたら、きっと瀬山さんをここに、………………えっ!? ビンッ!! 僕の位置から2時の方向。 そこへと伸びる1本が、不意を打って張り詰めた。 同時、僕の身体が大きく揺れる。 マ、マズイ……! 身体が引っ張られる……! 負けるな、耐えるんだ、転んだりしたら最悪だ! 僕の手には鎖の親玉、赤い霊力(ちから)で出来た塊があり、鎖はすべてここから伸びている……そうなんだけど。 もしだよ、この親玉から手を離したら……その瞬間、すべての鎖が消えてなくなる。 考えただけでココロが折れそう、絶対やだよ。 せっかくココまで頑張ったんだ。 転んで塊が手から落ちたら……クソッ! 意地でも転ぶ訳にはいかないよ。 焦った僕は額に汗して、足を広げて踏ん張った。 ピンと張り詰めた1本の鎖。 この先にいるのはおそらく瀬山さんだ。 姿は視せずに、鎖をグイグイ引っ張ってくる。 なんだよ、素直に来てくれたらいいのに。 なんで綱引きみたいな事をするのか。 真意はわからない……が、今二人は繋がっている。
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