第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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大地には草が生え、木の実や折れた小枝がそこいらじゅうに転がっている。 その上を、強い霊力(ちから)で引きずられ、踏ん張るスニーカーは地面に跡を残していた。 ズルズル……ズルズルズル…… 「あぅ……持ってかれる……連れていかれる……」 こめかみに生ぬるい汗が流れ、引きずられながらも鎖の親玉を落とさないよう頑張っていた。 赤い鎖はパワーもあるし、霊の拘束もお手の物。 だけど下手に術者が動けなくなるのが難点だ。 神奈川の現場でもマジョリカさんの現場でも、動けない事で大変な思いをしたのよね。 改善すべき大きな点、コレ……あとで先代と瀬山さんに相談してみよう。 ズルズル……ズルズルズル……ズルズルズルズル…… そんな事より、ちょ、どうしよう……やだ、抗えない。 これじゃあ、瀬山さんをココに呼ぶどころの話じゃないよ。 僕の計画では、 赤い鎖発動→鎖、瀬山さん発見!→鎖でクルクル拘束→ビューンと僕のトコまで来てもらう→大福、僕をベタ褒め!→ハッピーエンド♪ こんな感じだったのに……完全に僕の霊力(ちから)負け。 引っ張る霊力(ちから)があまりに強くて勝てる気がしない。 このままだと負ける、瀬山さんに引きずられる____ …… ………… って……あれ? 別にいいじゃん。 問題なくない? ああ、もう。 僕はダメだな。 瀬山さんにココまでお越しいただく、そればっかりを考えてたから気が付くのが遅かった。 僕が引っ張ろうと、瀬山さんが引っ張ろうと、要は会えればいいんだもの。 そうだよ、抗わず、このまま鎖に身を任せ、瀬山さんの所に連れてってもらえばいいじゃない! ココロがオドル、オドリまくる。 空には巨大な彼岸花、花言葉は現実になる。 くぅ……! 思えばここまでくるのは長かった。 これで会える、やっと、やっと、修行の入口に立てるんだ……! 肩から力が抜けた。 その分、鎖の親玉をしっかりと掴む。 引っ張る霊力(ちから)はいまだに強い。 僕は踏ん張るのをやめ、愛しの猫又に声を掛けた。 「大福、僕と一緒にかけっこをしよう」 『うなっ!』 元気に答えたスィートハニーは早々に地を蹴った。 二瞬遅れで僕も駆け出す。 引っ張る霊力(ちから)は強いから、走るくらいでちょうどいい。 行きつく先には瀬山さんがいるはずだ。
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