第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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極太鎖が獲物を狙った蛇のごとく宙を飛び、それはやがて、先に繋がる細い鎖と同じ場所に落ちた。 そこは広がる草地の終点で、その先は高さもまばらな木々でうっそうとしている。 あそこにいるのは間違いない、けど先生方はいまだ姿を視せてくれない。 せっかくの修行だ、いろんな事を試したい。 そんな欲に駆られた僕は、まずは現状を整理した。 最初こそ、瀬山さんに霊力(ちから)負けをしてたけど、極太鎖の投入で今は均等。 お互いに引き合う霊力(ちから)が相殺された。 立ち止まり、ジッとしたってもう引きずられる事はない。 ”対瀬山さん仕様”の極太鎖は、思う以上にパワーがあるのかもしれない。 僕と瀬山さん、 今、二人のチカラが均等なら、 そのバランスを崩してみたい、 崩して、瀬山さんより少しだけ強いチカラで、 僕の元までお越しいただきたい、なんて____ ____頭の隅では、 人としても、霊媒師としても、希少の子としても、 すべてにおいて大先輩である瀬山さんに、 僕はなんて失礼でおこがましいんだ、と思う、 なのに気持ちは昂って、 試してみたい衝動を止める事が出来なかった、 ひとつだけ言い訳をすれば、 決して驕っているんじゃない、 僕ごときが、瀬山さんに勝ってるとは思ってない、 ただ……たぶんだけど、 僕は前よりも、 霊媒師の仕事が好きになったのだと思う、 大変だけど、人の役に立つ仕事だもの、 だからおこがましくも挑戦したくなる、 僕は鎖の親玉経由で極太鎖に目一杯の霊力(ちから)を流した。 引き寄せるチカラを上げる、そしてココまでお越しいただくんだ。 「瀬山さんっ! どうかココにっ!」 ドクンと脈打つ極太鎖を霊力(ちから)いっぱい手前に引いた。 ゴツイ鎖は意外にも柔軟に、しなりながらも僕の元へ飛び戻る。 予想が正しければ、あの鎖の先端には拘束された瀬山さんがいるはずだ。 24人のオタク幽霊達も、百体以上の悪霊達も、みんなそうして縛り上げた。 無礼はあとであやまろう、ただ今は、そこにいるのか、いないのか、目を視開いて、その答えを待っていた。 …… ………… ………………答えはすぐに知れた。 飛び戻った極太鎖。 その先端には確かに、会いたくて会いたくてたまらなかった瀬山さんがいた。 サラサラの黒髪を風になびかせ、優しい目をして、そして嬉しそうに笑っていた。 やった……僕の元に来てくれた。 ここにお越しいただけたんだ。 胸がドキドキする、すごく嬉しいよ。 ただ……現れた瀬山さんの恰好は、予想していたのとは違ったもので…… そう、瀬山さんは、鎖に拘束されてはいなかった。 しなる極太鎖の先端で、優雅に、横向きに、微笑みながら、ラフな感じに座っていたのだ。
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