第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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社長の式神、赤い竜に少し似ている僕の鎖は、蛇のように渦を巻き、鎌首ライクに宙を漂っていた。 視上げた距離は目測2メートル。 その先端に座る瀬山さんは、まるで……神様のようだった。 『早かったですね、』 瀬山さんは目を細めながらそう言った。 早かった……というのは、瀬山さん達がいるココまで来るのが早かったという事なんだろうな。 「どうにかこうにかです。恥ずかしながら……僕はまだ霊視が出来なくて、なのに手掛かりは”W県の山中”しかないし、しかも県内の山は67か所もあるし、一人で霊視に挑戦したけどちっとも視えてこなくって……正直、途方に暮れました、」 つい昨日の事なのにな、なんだかずっと前の事みたいだ。 『そう……大変でしたね。たった一人で途方に暮れて……岡村さん、挫けたりしなかったの?』 鎖の上の神様は、微かに眉を寄せると心配そうに僕を視た。 「はは……そりゃあ最初は挫けました。でも、僕は一人じゃなかった。大勢の人達と一匹の猫又が助けてくれました。だからここまで辿り着けたんです。僕ひとりじゃあ、絶対に無理だった」 本当にそうだ。 みんながいなければ今頃、きっと僕は挫けてた。 空港近くの公園で膝を抱えて泣いていたかもしれない。 『そうか……助けてくれる人がいるというのは、ありがたい事です』 そう言って微笑んだ瀬山さんの表情は、優しくて柔らかくて、それにとっても嬉しそうだった。 僕を助けてくれる人がいる____瀬山さんは、その事を嬉しく思ってくれるのだろうか? だとしたら……そう思われるのが嬉しくて、僕は自分の顔が赤くなるのを感じていた。 「た、助けてくれる人の中には……瀬山さんと先代もいます。二人とも待っていてくれました。僕なんかの為に修行をつけてくれるなんてありがたいです」 まだやっとスタートラインに立ったばかりだけど、修行は始まってもいないけど、それでも気持ちを伝えたかった。 こういうのはちゃんと言葉で言わないとダメなんだ。 『…………ううん、ううん、いいんだよ。だってキミは、平ちゃんにとって大事な子だもの。それなら私にとっても大事な子だ。私で役に立つのならこんなに嬉しい事はない。それに言ったでしょう? ”希少の子”の霊力(ちから)の使い方は、他の霊力者と少し違う。それを教えてあげるって____そう、たとえば、』 ここで言葉を止めた瀬山さんは、細い手指をゆっくりと絡めだした。 あれは……印を結んでいるんだ。 瀬山さんは鎖の上に立ち上がり、僕に向かって手指を視せる。 そうか……印の形を、工程を、僕にわかりやすくする為にわざとゆっくりしてるんだ。
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