第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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その工程を視逃すまいと、食い入るように視つめていた。 きっと1度じゃ覚えられない。 でもいい、流れだけでも視ておきたい。 それは知らない印だった。 複雑で、繊細で、なのに結び慣れていて、まるで得意な楽器を演奏しているような感じ。 ゆっくり蠢く極太鎖は相も変わらず赤黒の、禍々しい光を発していた。 もし手を離したら……途端鎖は消え、その上にいる瀬山さんが落ちてしまう。 印の途中でそんな事が起きないように、僕は瀬山さんから目を逸らさないまま、手の中の鎖の親玉をしっかりと持ち続けていた。 演奏を視る事数十秒。 徐々に絡む手指がほどけ始め……どうやら工程が終わったみたいだ。 『岡村さん、よく視ててね』 優しい声でそう言われ、瀬山さんの霊術が発動するのだと、それは一体どういう術なのかと、期待に胸が高まった…… その時だった。 向かい合わせに湾曲させた、瀬山さんの手の中が光った。 それは”瀬山さんの霊力(ちから)の塊”と同じ綺麗な真珠色で、放射線状に放たれる。 僕はその眩しさに思わず目を細めた。 狭めた視界に映るもの。 瀬山さんから発せられる霊力(ちから)は、まるで白い彼岸花のようだった。 その花びらはメートル単位で広がって、だがすぐに留まり、2秒の滞空の(のち)、方向を変えた。 根元から内側に折り返した花びらは、先の尖る触手と化して、霊力(ちから)を発した主へと向かう。 危ない、と思った。 だがそれは杞憂に終わり、高速の鋭利な触手は狙いを定めて一斉に____ 瀬山さんの足元、僕の鎖をズブズブと突き刺した。
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